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2008年03月 アーカイブ


2008年03月31日

はてな モルト会  | 一考   

 赤坂のテーブルスタジオタキトーでくらやみ食堂が催された。その名の通り、真っ暗闇でフルコースを愉しむのが主旨で、出てきた肉が魚肉なのか、豚肉なのか、鴨肉なのか、または飲んでいるワインが赤ワインなのか、白ワインなのかすら判然としないという。
 この類いは私も何度か経験済みで、常日頃口にしているものでも当たらない。しかし、同じものでも目隠しをしていないと意外と当たる。ひとがいかに視力に頼っているかを物語っている。
 さて、普段口にするモルト・ウィスキーに限って目隠し抜きで予測・推測を的中させようと思う。
 用いるウィスキーはスキャパ、タリスカー、レダイグ、ハイランド・パーク、アードベッグ、カリラ、ボウモア、ラガヴーリン、ラフロイグ、グレン・スコシア、スプリングバンク、アベラワー、クラガンモア、グレンファークラス、グレン・マレイ、グレンロセス、ストラスアイラ、バルヴィニー、マッカラン、アバフェルディ、エドラダワー、オーバン、クライヌリッシュ、グレンモーレンジ、タリバーディン、フェッターケアン、オールド・プルトニー、ロイヤル・ロッホナガー、グレンキンチーなどのディスティラリー・ボトルから八種類を選ぶ。
 ハーフショットで会費はお通し込みで4000円。八種類のうち六種類以上当てた方には、次回来店の折にスモーク盛り合わせをサービスする。
 四月十二日(土曜日)に第一回を催す。題して「はてな モルト会」。鼻の下ならぬ鼻と舌に自信のある方のご参加を乞う。

店主


遠い思い出  | 一考   

 りきさんが「鏡花論集成」を誉めてくださった。彼のところへいきさつを書き込んだが、他にも思い出したことがあったので少々。
 同書の上梓は1983年9月だが、編輯は1971年1月にはじめられた。この間、1972年1月に「別冊現代詩手帖第一巻第一号泉鏡花」が思潮社から上梓され、小生も編纂を手伝った。当時の現代詩手帖の編輯長桑原茂夫(後のカマル社)さんとは随分酒を飲んだ。菅原(後の牧神社)、大泉(後の書肆山田)、渡辺(後の北宋社)各位を紹介され、宮園洋さんとは特に懇意にさせていただいた。洋さんの協力でバタイユの「大天使のように」を装訂したのが1970年。翌71年1月にサバト館を作る。I田との関係は「別冊現代詩手帖」の上梓以降おかしくなった。これはあくまで時期を指すのであって、理由は他にある。
 「鏡花論集成」は思潮社から出る予定が牧神社へ引き継がれ、十余年の年月を経て立風書房から上梓された。上梓に当たっては立風書房編輯長宗田安正さんの世話になる。田荷軒にて知り合い、阪急電車で多田智満子さん家へ向かう途次、鏡花のはなしになった。
 その多田さん、矢川さん、種村さんと知り合ったのは1969年。この間山本六三さんを招き、ずっと水曜会を催していたが、72年12月のコーベブックス入社によって中断。水曜会については項を改めたく思う。


AGE  | 一考   

 ちはらさんから寒いので車で送ってと請われた。従って本日は車で店へゆく。先週、芳賀さんが来店、新宿のAGEが店仕舞するかもしれないと聴く。今日はAGEへ行く、清水弘子さんと話し合わねばならない。
 AGEは嬰児、如嬰児之未孩と老子にいう。私は南船北馬を専門としない。この場合の南船北馬は「胡人便於馬 越人便於舟」すなわち東奔西走の意ではない。北の孔子に対し南の老荘を指す。老荘思想のゆらゆら揺れ動くさまを船と例える。私はAGEではじめて嬰孩に接したというよりも、孩ったのである。言い換えれば、ひとの情に胸襟を開いた。
 彼女の生き方もおよそ不格好である。それでいいと思う。「定番を何種類か用意して撰ばせる風を装わなければならない」と先日書いた。この消息は飲み屋に限らない、サルトルやカミュの諍いから学んだものである。シュルレアリスムが腑に落ちないとは何度も書いてきたが、実存主義も私には眉に唾するものと思われる。私にとって人生とは迷いに惚けることであって、さだめなく振れ続けることでしかない。個と全体、行動する自由と世界の関係はなにひとつ解決されたわけではない。アンガージュはまだまだ遙か遠方にある。


2008年03月26日

新来の客  | 一考   

 連日、新しいお客さんが来る。先だってはエナジェンの野田さんが飲みにいらした。領収書の宛名書きに会社名が必要なのでお借りしたが、名刺を受け取って欲しいとのことで拝領した。ちょいと検索してみたが、私にはちんぷんかんぷんで要を得ない。新しい技術を携えた起業家らしい。会社は平河町だが、ご自宅は赤坂だそうで、近隣の方に来ていただけるのはありがたい。
 バーナビを見て来られた方もいる。住所は新しくなったものの、定員は二十七名、食事ができると書かれている。これは何処のですぺらかと思う。いずれにせよ、プリントアウトしたものを持って来られる。便利な世の中になった。パソコンはおろか、複写機すらなかった戦後直近の世代にとっては愕きの日々である。
 常連客の小山さんや野島さんはモルト・ウィスキーの書き込みを持参なさる。その熱心さには頭が下がる。仕入れも彼等を意識したものに変わってきた。さまざまなところで、パソコンが有効活用されている。ウィスキーの書き込みを増やさなければと思う。
 月が変われば雑誌四誌の効果があらわれる。新生ですぺらははじまったばかりである。


料理  | 一考   

 薫製を作った。終日作っていたので家中が桜と林檎のチップの香りでむんむんする。やはり店で作るべきだった思うが、店には冷凍庫がないので往路運ばなければならない。その手間を考えると拙宅で作るしかない。
 豚のバラ肉と合鴨と砂胆を作った。実はミミガーのスモークが好物なのだが、人気がない。明石ではスモークチーズも作っていたが、こちらは一日しか持たないので止めた。上京してから料理への思いが変わった。関西では当たり前のお任せが東京では通用しない。このことは既に掲示板で書いたが、「持てなし」への考え方が基本的に異なる。客を遇すのは店側の仕事の筈なのだが、東京では客が客をもてなす。速いはなしが、客のチョイスに店が合わせるのである。これでは料理は作られない。居酒屋のように定番を何種類か用意して撰ばせる風を装わなければならない。
 一ツ木通りで、一年頑張ったものの諦めてしまった。開店時、小鉢ものを五種類ほど用意したもののまったく需要がない。そこで居酒屋メニューに切り換えたところ、そこそこの評判だった。ただ、それを料理とは言わない。今回、モルト・ウィスキーの専門店にしたのはそうした理由があった。食後酒であれば、料理のことは考えなくて済む。バーはナッツやドライフルーツを出しておればよいのである。それへの抗いがスモークであろうか。抗いはひとつあれば充分である。
 料理を作りたくなれば割烹を造ればよい。そのような機会があるかどうかは分からないが、むげに夢を抓む必要もあるまい。


2008年03月25日

書庫  | 一考   

 ぼんぼりのような菊の花と書いたが、生身の花が一日わが家に咲き誇った。すなわち妙齢のご婦人たちがちはらさんを訪ねて見えられたのである。私が同席したのはは三十分足らず、爺が相手では弾むはなしも萎びてしまう。ちはらさんから聴いたはなしだが、一時間ほど書庫に籠っていた女性は宇野浩二が揃っているのに感心なさったらしい。宇野浩二ならあらかた揃っていると思うが、今様の若い女性が興味を抱くとは思わなかった。いつの世にあっても、殊勝な方はいらっしゃる。
 二十歳位の頃、「枯木のある風景」や「思ひ川」は幾度となく読み返した。宇野浩二については場を改めるが、件の女性が読むのであれば、書庫はいつでも開放する。爺には宝の持ち腐れであって、若いひとの斬新な意見を伺いたいと思う。拙宅の蔵書もいつまでもはない、漸次処分している。近松秋江も「別れたる妻に送る手紙」「黒髪」をはじめ、東山安井の銭湯の思い出共々売り払った。役に立てるなら今のうちだと心している。


供花  | 一考   

 父の死後、実家は家族に譲った。譲らなければならない切羽詰まった事情があった。従って、帰るところはどこにもない。どこにもないどころか、帰ってはならないわけがある。その理由はここでは著せない。私にもいささかの秘め事はある、生きていればこその醜いあらがいに身をさらしている。
 もっとも、私自身どう考えても帰る用もない。ないと書けば母に合わせる顔がない。惚けを言訳に施設へ放り込んであとは知らぬ顔、爾来十年近く会っていない。そして、父の墓参も一度として果していない。果していないどころか、実は墓の在所すら知らない。ことここに至っては、このまま逃げを決めこむしか手立てはない。自らを人外というのは掛け値なしのはなしである。ひどい子を持ったと親には諦めてもらうしかない。

 震災で神戸の行きつけの飲み屋はことごとくが瓦解、三重へ広島へ宮崎へ鹿児島へと大方は生まれ故郷へ戻って行った。明石の知己も焼肉屋とショットバーを営む僅かふたりを除いて他は散り散りになった。企業城下町での商売は親方が倒けると成り立たなくなる。それと比して東京なら不特定のひとを相手になんとかやっていける。それと管理会社のおかげで、神戸や明石より家賃の安い店舗を見付けることができた。当座はここにしがみつくしかない。
 赤坂でバーテン仲間はできた。しかし、赤坂への帰属意識など抱きようもない。かつて新しい街への陣痛の渦中だった福原で少年期を過ごした。花柳界の乾枯した殻を蝉脱せんとする息吹と言えば聞こえはよいが、それは単に色街の「色」の企業化に過ぎなかった。街への思いはひとへの思いと重なり合う、それを風情という。そしてひとが去ったとき、街は冷たく色褪せたものになる。街が光彩をなくしたとき、それは私が福原を去るときだった。思い返せば、あの折に神戸との訣別は済ませた。福原を私は熱海のような街と思っている。熱海は赤坂に先行する滅びへの途を着実に歩みはじめた街である。
 それやこれやで、誘われはするもののコミュニティには属していない。東京のどこに住んでいても、新宿というアンダーグラウンドが私にはまとわりついている。泥酔が許される街は新宿を除いて他にはない。
 私には接客ができない。ただ、酒のはなしならできる。それでモルト・ウィスキーの専門店を営んでいる。他に理由はない。そこのところを幹郎さんは巧く書いてくださった。あと一週間ほどで「嗜み」が上梓される。幹郎さんには感謝のしようもない。気が弱くて小心で、それを隠すための刃傷沙汰だった。幹郎さんの筆はそんなところにも及んでいる。シャイは複数形で邪意となりセンチは浅知と同音である。過去、為してきたことはいくらかある、ただ、為してきたことと出来ることとは別ものである。私にできることはなんだろうかと、この歳になってなお迷い続ける。

 このところ、拙宅の此処彼処に花が咲く。玄関にはぼんぼりのような菊の花が双輪、淡い浅黄の供花と聞くが詳細は審らかとしない。いずこの線香花火より、いやさ仕掛け花火よりも一段と艶やかに咲いている。


2008年03月24日

モルト会後方記  | 一考   

 旧12年ものからはじめたのが、よかったのか悪かったのか、終日コスメティックな香りに悩まされた。なにを飲んでも、初手の香りが最後まで付きまとって離れない。日曜日になっても酒を飲むことが叶わなかった。揚句、胃薬服用のやむなきに至った。
 ゲラン社製の夜間飛行とミツコ、シャネルの15番、その辺りの香水を常用する女性と私は酒を飲まない。酒の香りが分からなくなるからである。これはモルト・ウィスキーを飲み出すはるか前からの、謂わば庭訓の一である。ベルガモットが嫌いなわけではない、アールグレイを嗜むこともある。ただ、程度によるのである。
 ボウモアはモルト・ウィスキーの夜間飛行である。似た酒にエドラダワーとグレン・ギリーがある。ちなみにグレン・ギリーは「草木染に用いる露草や湿った海苔、ボウモアをより淡白にした甘くコスメティックな香り。バイオレット・フィズを想わせるややオイリーな味わい。バランスはよいが浅く軽いフィニッシュ」となる。いずれにせよ、偶に少量飲むにはよい食後酒である。しかし、ボウモアを十二種類、これは残酷な責め苦にしかならない。へどもどさせられたモルト会だった。
 今回は端境期のボウモア、そして新生ボウモアの飲み会はもうしない、催したくないのである。ロンバードの解説に「ディスティラリー・ボトルのカスク・ストレングスほど過激ではないが、本品もサーフ系。欧州ではこちらのボウモアが人気筋。ペルノ、バスティスト、アニゼットに親しむお国柄である。強い香りが好まれるのは当然」と書いた。私がもっとも苦手とする酒はアブサンだったが、そこにボウモアも加えて置こう。


2008年03月22日

モルト会解説補記  | 一考   

 過去、ボウモアの飲み会をどうしてしなかったのか不思議である。失念していたとしか言いようがない。サントリーのボウモア・カスク三部作が出揃ったので、モルト会をと思ったのだが、新生ボウモアは次回に回す。その前に端境期のボウモアを味わっておきたい。それほどにボウモアの香味は変わったのである。
 「美味しんぼ」という漫画作品でサントリーがオーナーになってからボウモアの味がおかしくなったと記されているらしい。私は漫画を読まないので確認していない、従ってもしも間違えていたら申し訳なく思う。とにもかくにも、漫画のネタになるほどボウモアの味は安定しなかった。それは事実である。私が上京したのは十年ほど前だが、赤坂のバーテン仲間から類するはなしを多く聴かされた。ゆく先々でサントリーは悪者だったのである。
 サントリーがオーナーになって、まずコンデンサーの冷却方式を旧タイプに、位置も本来あるべきところに戻したと伝えられる。理由がなんであれ、サントリーの手によってボウモアの香味は安定した。要するに、矯激なまでのコスメティックな香りから解放されたのである。
 解説のなかで、レジェンド系、セレクト系、サーフ系としたのは便宜的なものである。十五年ほど前、ボウモアをはじめて飲んだ折、種類の異なるモルトを造っているのかと思った。レジェンドはパヒューム香が弱く、サーフは強く感じられた。セレクトはちょうどその中間に位置するモルト・ウィスキーというのが私の個人的な意見であった。それらは安価なものなので是非お飲みいただき、香味の差違を確認していただきたい。
 前述の三部作の第一回は熟成にバーボン樽を用いている。サントリーがボウモア蒸留所を買収して十八年になるが、現在造られているモルト・ウィスキーは長期熟成に耐える足腰を持っている。これから二十年、二十五年、三十年ものが発売される。過去の名品を超えるモルト・ウィスキーがこれからのボトリングを待っている。
 現在のモルトはいかなる意味においても過去のそれよりは美味しく、かつ香味豊かなものに仕上がっている。レアものを慈しみ、過去のボトルを懐かしむのも結構だが、味覚の再認ほどせつないものはない。それでなくても、記憶は濾過され、培養され、現実とはまったく異なったものに変貌していく。言い換えれば、記憶とは創られ、育まれるところの内的体験である。
 酒を愛でるときは私心を捨てて端坐しよう。書物と同じく、酒との出会いも一期一会。それはこしかたへの愁傷でも憐憫でもなく、酒が秘めたあらがいとうめき、即ち酒に纏わる人々の搏動に静かに耳を傾けることでしかない。


モルト会解説  | 一考   

ですぺらモルト会(端境期のボウモアを飲む)

01 ボウモア12年※
 40度の旧ディスティラリー・ボトル。
 ラベンダー、ヘザー、ハニー、カラント等々、綺羅を競う香気とスモーキー・フレーバーやピート香との微妙なバランスは謎とされ、喧(かまびす)しい好事家の糧になっている。フィニッシュは穏やかな辛口。
 蒸留釜コンデンサーの冷却方式を昔通りに改めたのが90年初頭、それから12年を経た2002年に新しいボトルが頒布された。本品はそれ以前のプリントラベルのボトル。正確には1993年初期のボトルである。
 2002年9月現在の並行ものが旧ボトルと同じボトルで頒されている。飲めば分かるが見た目だけでは識別が不可能、将来ややこしくなりそうである。

02 ボウモア '89(ロンバード)
 ジュエル・オブ・アイラの一本。10年もの、65.3度のカスク・ストレングス。
 ディスティラリー・ボトルのカスク・ストレングスほど過激ではないが、本品もサーフ系。欧州ではこちらのボウモアが人気筋。ペルノ、バスティスト、アニゼットに親しむお国柄である。強い香りが好まれるのは当然。
 ディスティラリー・ボトルと飲み比べるのも一興。

03 ボウモア '89(クライズデール)
 9年もの、58.7度のカスク・ストレングス。限定306本のシングル・カスク。
 昨今のボウモアの一部商品はベンゾイン系の化粧品臭に汚染されているのではないかと思うくらい、香りのベクトルが強い。ところが、独立ボトラーのそれにはレジェンド系のモルトが多く販売され、かかる異臭があまり見受けられない。ミルロイ社のボウモアと共に当ボトルもお薦めの品。
 同じレジェンド系にイアン・マクロード社のチーフタンズやダグラス・マクギボン社のプロヴァナンスがある。共にアフター・テイストに爽やかな甘味。
 ちなみに、セレクト系の香味を持つものに、マーレイ・マクデヴィッド社やドナート社のダン・イーディアンのボウモアがある。化粧品臭が残るものの、頗るシンプルな味わい。

04 ボウモア '89(ブラッックアダー)
 ロウ・カスクの一本。オーク・バレルの11年もの、64.0度のカスク・ストレングス。限定265本のシングル・カスク。
 ダグラス・レイン社のオールド・モルト・カスク、ハート・ブラザーズ社のファイネスト・コレクション、ウイルソン&モーガン社のバレル・セレクションの香味はレジェンドとセレクトのちょうど真ん中。至って飲みやすく、まずまずの及第点。共にバーボン・カスク特有のパワフルな味わいが身上。
 ただし、ハート・ブラザーズ社のカスク・セレクションやヴィンテージ・コレクションなど、長期熟成のモルトはダンカン・テイラー社の提供になるものが多い。従って、スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ同様、セレクト系すなわちコスメティックな香味が強い。

05 ボウモア・ダスク※
 14年もの、50度のディスティラリー・ボトル。
 本品は珍しいクラレットによる熟成。コスメティックな香りは幾分和らぎ、その代わり、京都の麩饅頭のような苦みが後口に残る。好感の持てる苦みなのだが、それが渋みでないのが不思議、樽のなせる魔術の一種。
 いまなお並行輸入されているが、本品は1990年代のボトリング。

06 ボウモア・カスク※
 56.0度の旧カスク・ストレングス。
 龍涎香、麝香、安息香等、ベンゾイン系の癖の強いエキゾチックな芳香と珈琲リキュールの甘い香り、消化不良を起こしかねない矯激なディスティラリー・ボトル。
 2002年9月現在の並行ものが旧ボトルと同じプリントラベルのボトルで頒されている。飲めば分かるが見た目だけでは識別不可。将来混乱しそうである。本品は1993年初期のボトリング。

07 ボウモア・ドーン※
 51.5度のカスク・ストレングス。ルビー・ポート・フィニッシュのディスティラリー・ボトル。
 ボヤージュの姉妹酒。バーボン・カスクで12年、ポート・カスクで2年の熟成。
サントリーはボウモアを五種類に限定したが、その五種以外のボトルはいまなお不定期に並行輸入されている。ダーケスト、ダスク、ドーン、ボヤージュはボヤージュを除いて安価で提供されている。本品は1990年代のボトリング。

08 ボウモア・ボヤージュ※
 56度のカスク・ストレングスにしてディスティラリー・ボトル。
 本品はポート・ウッドを熟成に用いたリミテッド・エディション、ボトリングは1990年代。他にドーンと名付けられたルビー・ポート・フィニッシュのボトルがある。

09 ボウモア '89※
 バーボン・カスクの16年もの、51.8度のカスク・ストレングスにしてディスティラリー・ボトル。
 サントリーがボウモア蒸留所を買い取る前年のボトル。現行の香味に近いものを選択。90年蒸留のシェリー・カスク、91年蒸留のポート・カスクと続く三部作の初回作品。
 新しいと言うよりは、かつてのボウモアの香味が甦った記念すべき一本。今後、ボウモアの中身は順次新しいモルトに切り替えられて行く。

10 ボウモア21年※
 43度のディスティラリー・ボトル。
 更なる上級酒に25年、30年、38年等がある。本品の購入は1993年、従って蒸留は72年以前になる。

11 ボウモア '73(キングスバリー)
 キングスバリー社は倫敦に本社を持つ酒商。本品はリフィール・バーボン樽の25年もの、46度のシングル・カスク。
 ミディアム・ピートやスモーキー・フレーバーの香り、沃素のキャラクター等、73年ものだけに安心。シグナトリー社の74年蒸留23年ものカスク・ストレングスやジョン・ミルロイ社のボトルと同様に、こしかたのボウモアの味を愉しむことが出来る。

12 ボウモア '82(ダンカン・テイラー)
 ピアレス・シリーズの一本。オーク・カスクの24年もの、51.5度のカスク・ストレングス。165本のリミテッド・エディション。
 旧カスク・ストレングスにまさるとも劣らないパヒューム香。思うに、コスメティックな香りがもっとも強いのは80年代のボウモアか。


2008年03月21日

白州シングルモルト2  | 一考   

 白州・ヘヴィリーピーテッド・モルト '93(サントリー)
 ウッドタイプはホワイト・オーク、カスクタイプはホグスヘッド。14年もの、58.0度のカスク・ストレングス。232本のリミテッド・エディション。樽違いあり。

 白州・シェリーモルト '93(サントリー)
 ウッドタイプはスパニッシュ・オーク、カスクタイプはボタ・コルタ。14年もの、60.0度のカスク・ストレングス。571本のリミテッド・エディション。

 一月三十日に紹介したTHE CASK of HAKUSHUが二種入荷した。山崎ほどの意外性はなく、やはり白州だと思わせる品のよさを持つ。ボタ・コルタはバット樽と容量は同じだが寸が短い、逆に直径が大きいのである。従ってウィスキーとカスクの触れ合う面積が小さい。それだけ熟成がゆっくりなされる。十四年にしてはシェリー特有の渋味が少ない。
 ホワイト・オークとスパニッシュ・オーク、共に極めてドライ、なんの抵抗もなく、喉の奥にストンと落ちてゆく。この透明感は日本のウィスキーに総じて言えることであって、間違いなく水のせいだと思う。
 店で用いている水はサレルノのヴィトロガッティである。これに限らず、欧州の微発泡水はグルタミン酸やイノシン酸の味がする。私は秘かに昆布水と名付けている。それと比して日本の水は極めてクリアー、雑味がまったくない。ちなみに、ヴィトロガッティで茶漬けをつくると不味い。硬水と軟水の違いを越えて、味の素を入れすぎたような味になるのである。
 近頃はミネラル・ウォーターやナチュラル・ウォーターについて囂しいが、日本の水を輸出してはどうだろうか。喝采をもって迎え入れられると思うのは私だけだろうか。


文春の取材  | 一考   

 四誌の取材がすべて終わった。いささかの反応があろうかと期待している。君島佐和子さんのために、お薦めのウィスキーの解説を新たにした。過去の書き込みと重複するが、掲示板は流し読みされるもの、何度繰り返しても構わないだろうと思う。

 カリラ '95(ユナイテッド・ディスティラーズ)
 ザ・ディスティラーズ・エディションの一本。モスカテル・シェリー・フィニッシュの12年もの、43度。
 販売は07年から。ミディアム・ボディながら、カリラ特有のかがり火のようなスモーキーさが重量感を持つ。モスカテル・シェリー樽(マスカッット)の爽快な甘味の痕跡は抑えられ、全体に辛口に振られている。ピート、薬草、熟したフルーツの香りを伴う。シナモンを思わせるスパイシーなフィニッシュ。バランスの良さはディアジオ社のお家芸だが、それにしてもモスカテルとは考えたものである。その着想に脱帽。

 アイラ・ストーム・カスクストレングス(ヴィンテージ・モルト)
 58.0度のカスク・ストレングス。蒸留所未公開のアイラモルト、中味は10年ものと思われる。
 ジェームズ&ソンズと記されているが、ヴィンテージ・モルト社の樽をウィスク・イーが販売。ヴィンテージ・モルト社は1992年、ブライアン・クルックによってグラスゴーのバーズデンで創業。ヴァテッド・モルトの「フィンラガン」をボトリング。シングル・モルトはクーパーズ・チョイスの名でボトリングしている。イアン・マクロード社同様、ラガヴーリンを多く所有。スコッチ・モルト・セールスへも卸している。
 微かな甘味を伴うフィニッシュはハイランズ&アイランズ・スコッチ・ウィスキー・カンパニーのアイリーク同様、ラガヴーリンのそれに間違いない。久しぶりの巧緻な味わいのラガヴーリンである。

 クラガンモア・カスクストレングス '93(DB)
 ボデガ・ユーロピアン・オークの10年もの、60.1度のカスク・ストレングスにしてディスティラリー・ボトル。15000本のリミテッド・エディション。
 熟成年とアルコール度数を感じさせない柔らかさを持つ。コーヒーやビターチョコレート、グレインや皮、マディラ酒などの香り。加水すると、スモーキーさからウッディな芳香へ、さらにナッツ系の香りへと変化してゆく。ハーブやスパイス(月桂樹・胡椒の実・ナツメグなど)のキャラクターを内包。さまざまな暗示があり、名状し難い複雑な味わいを呈している。

 クラガンモア・カスクストレングス '88(DB)
 リフィール・アメリカンオーク・ホグスヘッドの17年もの、55.5度のディスティラリー・ボトル。5970本のリミテッド・エディション。
 10年ものより、色は淡く、香味は確実に複雑。スティルの独特な形状により、蒸気中の不純物がローワインに戻され再凝縮する「リフラックス」のよさを最大限に活かす。つねに芳香が変化する様はバルヴィニーのシングル・カスクと双璧。表現力豊かなクラガンモア。
 それにしても、10年ものをスパニッシュ・オークのシェリー樽、17年ものをアメリカン・オークで熟成するところは非凡。10年であればカスク由来の変化に富む香味の力を借り、17年であればこそカスクによる変化を拒む、ブレンダーの卓越した妙技に感服。

 グレンロッシー '78(ヴィンテージ・モルト)
 クーパーズ・チョイスの一本。オーク・カスクの22年もの、43度のシングル・カスク。
 清々しい白檀の香りが特徴。そのミント香とクリーミーなピート香、フレッシュでドライな喉ごし、麦芽とシェリー香のアクセントを得て、フィニッシュは徐々にスパイシーに。ディスティラリー・ボトルをはじめ、既存のグレンロッシーと比して濃厚な噛み心地と切れ上がりの暖かさは絶妙。
 リンクウッドやロイヤル・ロッホナガーと共にソフィスティケーテッドなウィスキーとして識られる。ヘイグとディンプルの重要な原酒モルトで、ブレンダーの間でも高い評価を受ける。
 クーパーズとは樽職人の意。2001年5月にラベルが一新された。

 ノックドゥー21年(DB)
 オーク・カスクのミディアムボディ、57.5度のカスク・ストレングスにして6200本のリミテッド・エディション。
 74年蒸留のゴードン&マクファイル社のボトルは特に秀逸とされるが、本品も二重丸。アン・ノックのブランドで頒されている現行のモルトと比して、遙かに濃厚でパワフル。完熟林檎や西洋梨の香り、スコッチ・バターの艶のある香り、さらにはナッティーな味わい。クリーミーなラスト・ノートを堪能できる。
 ヘイグのキー・モルトとして、またインヴァー・ハウスの主要モルトとして識られる。2002年に23年ものが二種、57.4度と57.5度がそれぞれ3200本限定でボトリングされている。

 ロイヤル・ロッホナガー '98(ジャン・ボワイエ)
 ベスト・カスク・オブ・スコットランドの一本。シェリーカスクの8年もの、43度。
 ジャン・ボワイエ社はフランスのみならずヨーロッパでも最大級のボトラー。設立は1993年だが、1975年にスコットランドからの輸入をはじめ、1985年にはフランス国内屈指の輸入卸業者に成長、スプリングバンクやボウモアなどの正規代理店になる。現在では数種類のレンジ(ラベル)で総計50種類以上に及ぶ多彩なモルトの品揃えを誇る。それにしても、ボトラーズのロイヤル・ロッホナガーはめずらしい。
 ヴィクトリア女王が愛飲した王室御用達ウィスキー。気稟のよさを感じさせる清冽かつ閑雅な味わい。スムースかつクリーミーなフル・ボディ。ペパーミントのエレガントにして涼やかな香り。フィニッシュはややドライ、暖かみのある切れ上がりが長く続く。VAT69やジョン・ベグ・ブルーキャップの原酒モルト。

 リンリスゴー '82(マキロップ)
 マキロップ・チョイスの一本にして17年もの、61.2度のカスク・ストレングス。シングル・カスク。
 マキロップ社はグラスゴーのインデペンデント・ボトラーにして、中味はセント・マグデラン。ちなみに、リンリスゴーとは蒸留所が在した町の名。セント・マグデラン蒸留所が建てられたのは1765年、一方で創業は1797年ともされる。いずれにせよ、リトルミルやローズバンク等と共に、最古参の蒸留所だったが、1983年に閉鎖、現在ではアパートメントになっている。ストックが尽きた段階で永久に飲めなくなるモルト・ウィスキー。
 ローランドの特徴であるソフトでスムースな飲み口、ニートが似合うミディアム・ボディ。フィニッシュは程良く、スイートからドライへ。後口にごく僅かな苦み。アルコール度数を感じさせないのは充実したボディ、バランスが取れた酒質の高さによる。


2008年03月19日

ありがたうございます  | 高遠弘美   

 一考さま

 いつも忝ないお言葉、身にしみて嬉しく存じます。今回の原稿、身に余る光栄と存じてをります。「かりのそらね」の魅力の一端に少しでも迫ることができればと思つてをります。
 一考さんをはじめ、皆樣のお蔭です。心より御礼申し上げます。


2008年03月18日

快挙  | 一考   

 「現代詩手帖」の「入沢康夫 かりのそらね」特集に高遠弘美さんと佐々木幹郎さんが寄稿なさるとか。近来まれに見る刺戟的な話かと思う。原稿料が安いのが玉に瑕だが、そのようなことはどうでもよい。「かはづ鳴く池の方へ」に窺える「わが出雲・わが鎮魂」と響きあう重層的な世界を、そして入沢康夫そのものを縦横に月旦していただきたいと願う。今回の詩集を前に途方に暮れるような輩への心添えや怒りなどどうでもよい。「詩といふのが、作者個人の経験と想像力と言葉に対する深い教養と、無意識の領分のちからによつて作られる」そこのところを掘り下げていただきたいと願う。


膝当て  | 一考   

 膝の震えを防ぐために、ズボン下と洋袴のあいだにプロテクターともサポーターともつかぬ代物を当てていた。暖かくなったので、先週の土曜日からそれを脱いだ。当然のことだが、鉄馬の速度制限も撤廃した。ちなみに、ズボン下を穿いたのは今期が生れてはじめてである。強く薦められたオーバーズボンも結局穿かなかった。一度だけ、雨天でもないのにレインコートを穿いた。あまりの寒さに音をあげたのである。
 ズボン下は癖になる。生きていれば、間違いなく今年の冬も穿く。それよりも、アメリカン・タイプの鉄馬は苦手である。今年の冬はBMWに再度跨がりたい。BMWはカウルが大きいので、風雨から身を守ってくれる。歳を喰うと楽をすることをのみ考える。


 | 一考   

 「棒立ちのような現代の詩歌」と書いたが、これも佐々木幹郎さんからの孫引きである。棒立ちか棒裁ちかは分からないが、いくらなんでも衽裁ちでははなしが合わない。これは棒立ちに違いない。ところで、話というものは勝手なもので、私はその「棒立ち」を棒のように意味なく突っ立っている、と解釈していた。ところが辞書によると「馬などが前脚を浮かせて棒のように立つこと。また、驚きや恐れでつっ立ったままでいること」と著されている。これでは意味合いがまるで違ってくる。
 はなしの内容は、音数律を用いているものの、表現のねらいが判然としない。もしくは五七調と七五調の違いすら汲み取られていない(棒立ちのような)作品ではなかったかと。幹郎さんには申し訳ないが、これも私の勝手な解釈である。いっそ「棒あきない」か「棒上げ」の方が一本調子で通りがよかったかとも思う。
 要するに、しかるべき研究機関や大学のようなところと縁のない私はいつもこのような間違いを為出かす。もっとも、これでまた幹郎さんとのはなしのネタができたわけだが。

 棒が滅亡の亡であろうが、耐乏の乏であろうが、妄言の妄であろうが、芒洋の芒であろうが、風来坊の坊であろうが、忘却の忘であろうが、茅屋の茅であろうが、閨房の房であろうが、茫漠の茫であろうが、昴星の昴であろうが、冒涜の冒であろうが、解剖の剖であろうが、旁若の旁であろうが、既望の望であろうが、眸子の眸であろうが、容貌の貌であろうが、無謀の謀であろうが、誹謗の謗であろうが、なんだって構わない。暮雨はやがて闇と溶け合い、そして漆黒のなかへ消え去ってゆく。


2008年03月17日

ですぺらモルト会  | 一考   

3月22日(土)の19時から新装開店後、三度目のですぺらモルト会を催します。
会費は12000円、オードブルは簡略に済ませます。
ウィスキーのメニューは以下のごとし。詳しい解説は当日お渡しします。
今回は09番と12番の二種を除いて2000年以前のボトリングが中心になります。
12年ものとカスク・ストレングスはパヒューム香の強い旧ボトルです。
90年を境にボウモアの香味は大きく変わり、そして安定しました。
その端境期のボウモアを愉しんでいただきます。こぞってご参加下さい。

ですぺらモルト会(ボウモアを飲む)

01 ボウモア12年(DB)
 40度の旧ディスティラリー・ボトル。
02 ボウモア '89(ロンバード)
 ジュエル・オブ・アイラの一本。10年もの、65.3度のカスク・ストレングス。
03 ボウモア '89(クライズデール)
 9年もの、58.7度のカスク・ストレングス。限定306本のシングル・カスク。
04 ボウモア '89(ブラッックアダー)
 ロウ・カスクの一本。オーク・バレルの11年もの、64.0度のカスク・ストレングス。限定265本のシングル・カスク。
05 ボウモア・ダスク(DB)
 14年もの、50度のディスティラリー・ボトル。
06 ボウモア・カスク(DB)
 56.0度の旧カスク・ストレングス。
07 ボウモア・ドーン(DB)
 51.5度のカスク・ストレングス。ルビー・ポート・フィニッシュのディスティラリー・ボトル。
08 ボウモア・ボヤージュ(DB)
 56度のカスク・ストレングスにしてディスティラリー・ボトル。
09 ボウモア '89(DB)
 16年もののディスティラリー・ボトル。51.8度のカスク・ストレングス。
10 ボウモア21年(DB)
 43度のディスティラリー・ボトル。
11 ボウモア '73(キングスバリー)
 リフィール・バーボン樽の25年もの、46度のシングル・カスク。
12 ボウモア '82(ダンカン・テイラー)
 ピアレス・シリーズの一本。オーク・カスクの24年もの、51.5度のカスク・ストレングス。165本のリミテッド・エディション。

ですぺら
東京都港区赤坂3-9-15 第2クワムラビル3F
03-3584-4566


2008年03月15日

かりのそらね  | 一考   

 昨日は雨天で店は暇だった。その代わりと言っては失礼だが、佐々木幹郎さんと一夜閑談の会に浴した。話題は「かりのそらね」。アナロジーの極致とも言うべき入沢康夫の「かりのそらね」については、高遠弘美さんが執拗かつ綢繆なエッセイを書かれている。詳しくはそちらを読んでいただきたい。否、必ずや繙かれたい。
 棒立ちのような現代の詩歌にあって聳つ作品というのは寡ない。山と積まれた書物のなかからそれを探し出すのは難儀である。真砂子のなかから一粒の貴石を索すに等しい労苦を伴う。質硬く色沢美しく屈折率の大きな作品というものは、おそらく十年、二十年に一冊しか生れない。「かりのそらね」と「わが出雲・わが鎮魂」はそうした詩集である。ここでは「かりのそらね」と一対になる「わが出雲・わが鎮魂」について触れたい。
 「わが親友の魂 血も凍るおもい 両のてのひらに そっとすくい上げた」詩集が手元にないのでうろ覚えだが、小学校時代の友の魂を追いかけてゆく、その魂は土地の霊となって・・・といった内容の詩集だった。その前の方の頁に鏡文字が出てくる。鏡文字とは一種のトロンプ‐ルイユで、鏡を介して通常の文字となる。幹郎さんによると、生徒にこの詩のよさを教えようとして鏡を書物の前に立てかけたと覚しい。その時、予期せぬことが起こった。左右が反転した文字のなかに自分の顔が立ち顕れたというのである。友の魂とは他ならぬ個々の読者自身であって、霊とは虚無そのものだったと幹郎さんは言う。
 入沢さんはどうやらそこまでは計算していなかったらしい。それにしても、読書の怖ろしさを読み解く幹郎さんの眼力は見事である。佐々木幹郎、そして高遠弘美、入沢さんはよい読者に恵まれた。


2008年03月14日

取材  | 一考   

 週刊文春の取材が十八日に決まった。筆者の君島佐和子さんは元料理王国の編集長で、いまは料理通信で活躍なさっている。モルト・ウィスキーや縮緬山椒等々、過去さまざまなお世話になった。舌に自信を持つ稀なる女人として畏敬の念を抱いている。
 スモークとウィスキー六種類だそうだが、山崎のヘヴィリー・ピーテッド、アイラ・ストーム、クラガンモアのカスク・ストレングス、ジャン・ボワイエのロイヤル・ロッホナガー、ノックドゥー21年、イアン・マキロップのリンリスゴーを取上げていただこうと思っている。彼女のワイン、特にブルゴーニュ・ワインに対する知識には横須賀さん共々驚かされたことがあるが、今回はモルト・ウィスキー。彼女の調法ならぬ筆捌きを愉しみにしている。


税務署  | 一考   

 これで五日連続で税務署から苦言を呈されている。領収書を探し出して打ち込みを済ませ、金銭出納帳がやっと合った。その結果六十五万円の赤字、というよりも現金の欠損となった。損金は帳簿上許されないらしく、事業主からの借入金にしなさいといわれた。私が私に出資するのはやぶさかでない、十億でも百億でも融通したい。ところが、二通ある預金通帳の残高は五十七円と二百三十円である。税務申告とは虚偽を書き記すものかと疑念を挿みたくなる。
 失念による付け落ちは当然あるだろう。しかし、偽りの申告は過去試みたことがない。売上は伝票通りであって、わずか十数万円の差で消費税の支払いに苦しめられたこともある。私は信条的には非国民だが、だからこそ義務は果たす。発言の自由を守りたいからである。発言の自由がそこまでしなければならないものかどうか、国家・国体に寇なすことを著したひとにしか分かってもらえない。
 他方、さまざまなひとから援助を受けている。その助勢が貯まりたまっての六十五万円なのかもしれない。だとすれば、その金数も個別に収入として申告しなければならないのだろうか。好意や思慕を帳簿に記述するがごとき無礼を私は働きたくない。そこには公開を阻む、個としてのぎりぎり譲られない信倚があると信じたい。


2008年03月13日

雑誌紹介  | 一考   

 雑誌の取材がつづく。三月十五日発売の「THE Whisky World vol.15」は赤坂特集で、ですぺらが載る。月末に文春から創刊される「嗜み」では佐々木幹郎さんがですぺらについて書いてくださる。四月八日には無料配布の「metro mini」でですぺらとマッカランが掲載される。ついで、料理通信編集長の君島佐和子さんが「週刊文春」で紹介してくださるらしい。
 幹郎さんはですぺらではなく、一考のことを書かれるとか。私ともっとも遠いところに位置するのが嗜みではないだろうか。窘みの方なら馴染みがあるが、嗜みとはとんとご縁がない。もっとも、書くとはひとに託つけて自分を著すことに他ならない。ここはひとつお手並み拝見、想像するだに背筋がぴくりぴくりと痙攣するではないか。他人の目に私がいかように写るのか、もしくはいかような目線が呈出されるのか。鶴首して待つ。


2008年03月12日

税務申告  | 一考   

 小生の不手際にてしばらく掲示板が機能しなかった。グレン・キースについての書き直しの最中におかしくなったのである。またまた、おっきーさんに迷惑をお掛けした、申し訳なく思う。

 税務署へ提出する用紙を頂戴しに市役所へ赴いたが、置いていないとのこと。川口まで取りにゆくのが面倒だと言うと、近隣で入手可能なところを調べてくださった。すぐ裏の商工会を紹介されたが、行って驚いた。そちらにも青色申告の相談コーナーが設けられていたが、閑古鳥が飛んでいる。川口のように三時間も待たされることもなく、懇切丁寧に教えていただける。なにごとにも穴場はあるもので、貸切の相談室を心強く思った。
 初回の計算では百二十万円ほどの利益が出ていたが、記入漏れが多く、結果はとんでもない赤字へと顛落してしまった。ちはらさんのおかげで、明日中に膨大な赤字の税務申告が終わりそうである。


2008年03月11日

グレン・キースについて  | 一考   

 最近グレン・キースが手に入らなくて困っている。ですぺらで最も売れ筋なのがストラスアイラとグレンキースのディスティラリー・ボトルだった。グレンキース蒸留所はストラスアイラの第二蒸留所としてシーバス・ブラザーズ社によって1957年に誕生。キースの町を流れるアイラ川沿いに蒸留所は建ってい、ストラスアイラと隣接している。
 すべてがシーグラムの原酒に回されるため、ディスティラリー・ボトルは一度も頒布されたことがなかった。待望のボトルは94年から頒布されたが、わずか六年で蒸留所は休業、翌2001年にはフランスのペルノリカール社が買収。その後、無音に打ちすぎたが、どうやら取り壊されるらしい。
 シングルモルトとしての最初は1980年代に発売されたゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスで、65年と67年蒸留のものが続けてボトリングされた。それ以降のボトルは以下のごとし。
 ディスティラリー・ボトルでは83年蒸留のヴィンテージ・ボトルが一度だけ頒されている。また、ピーティーな水とライトピートで仕込まれたクレイグダフがあり、シグナトリー社からボトリングされている。ちなみに、シェリー樽はファースト・フィルを用いる。姉妹会社のキリン・シーグラムからの依頼により、シーバス・ブラザーズが実験的に造ったものと思われる。同時期にストラスアイラ蒸留所で同じ試みで造られたものにグレンアイラがある。
 火にかけられた鼈甲飴の芳ばしさ、完熟林檎や西洋梨のアロマが強く、ドライかつシャープなきれを持った佳酒だったが、消え去ってゆくのは残念である。

 グレン・キース10年, ,10年,43度,(ディスティラリー・ボトル)
 グレン・キース'83,'83, ,43度,(ディスティラリー・ボトル)
 グレン・キース'68,'68,34年,58.1度,(J・ウィバーズ・ウィスキー・ワールド)プレミア・モルト、製造はマルコム・プライド
 グレン・キース'71,'71/06,34年,51.8度,337本,(クロス・ヒル)
 グレン・キース'85,'85/01,16年,59.2度,(ケイデンヘッド)オーセンティック・コレクション
 グレン・キース'67,'67, ,40度,(ゴードン&マクファイル)コニッサーズ・チョイス
 グレン・キース'65,'65, ,40度,(ゴードン&マクファイル)コニッサーズ・チョイス
 グレン・キース'72,'72/98,26年,45度,オーク,318本,(サマローリ)
 グレン・キース'72,'72,25年,45度,(サマローリ)
 グレン・キース'67,'67,21年,(シグナトリー)
 グレン・キース'93,'93/04,10年,55.2度,(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ)
 グレン・キース30年, ,30年,(ダグラス・レイン)オールド・モルト・カスク
 グレン・キース'69,'69/05,36年,49.5度,(ヴィンテージ・モルト)クーパーズ・チョイス
 グレン・キース'67,'67/00,33年,53.2度,(イアン・マキロップ)マキロップ・チョイス
 グレン・キース'76,'76,22年,51.2度,(ジェームズ・マッカーサー)スコッチ・ウィスキー500周年記念
 グレン・キース'74,'74,25年,52.9度,(ジェームズ・マッカーサー)オールド・マスターズ
 グレン・キース21年, ,21年,60.2度,(ジェームズ・マッカーサー)
 グレン・キース'85,'85,17年,43度,(モンゴメリーズ),シングル・カスク・コレクション
 クレイグダフ'72,'72/05,32年,53.9度,シェリー・バット,557本,(シグナトリー)カスクストレングス・コレクション

 モンゴメリーズ社について一言。アンガス・ダンディ社傘下のカンパニー、本社はグラスゴー。従って、マキロップ社とは兄弟会社になる。ボトリング・ライセンスを持ち、樽と樽とのヴァッティングは一切行わず、スモール・バッチを売りとする。第一回頒布は2000年末。
 このところ、ウィスキーの書き込みが続くが、ホームページ掲載の文章を書いてから既に十年が経つ。その間に蒸留所のオーナーは大きく変わった。例えば、シーバスすらが今ではディアジオの傘下に入った。グレン・モーレンジもディアジオに買収された。従って、グレン・マレイもアードベッグもグレン・モーレンジと共にディアジオの傘下にある。オーナーの変遷にとどまらない、ディスティラリー・ボトルの香味もまた揺らいでいる。それらの推移を書き綴って行きたいと思っている。


2008年03月07日

個人商店2  | 一考   

 地域社会の歴史を考究し、それが一国の歴史、世界の歴史の変遷とどのように絡みあうかを明らかにし、地域社会が当面する諸問題についての理解を深める。要するに、郷土史の研究の多くはそれぞれの地域の書店や古書店もしくは図書館などによって支えられてきた。この消息を言い換えれば、新古を問わずそれだけの自負を持って書店主は経営に携ってきたということになろうか。そのプライドがわざわいして、一部の書店は漫画のようなサブカルチャーを否定しつづけてきた。結果、消費者の支持を失って衰退して行く。謂わば、郷土史というサブカルチャーがもう一方のサブカルチャーを、もしくは漫画というサブカルチャーが郷土史というサブカルチャーを否認したのである。
 われわれの世代にあって、サブカルチャーは何よりもまず商業主義や権力装置に対して挑戦的かつ挑発的であった。それがゆえに、アンダーグラウンドたらざるを得ない。それはソンタグのいう「極めて深い悲痛感と危機感」を伴うものであった。サブカルチャーは全体的な文化(トータルカルチャー)あるいは主要な文化(メインカルチャー)に対比される概念である。その対比にわれわれは目線の移動を持って応じた。例えば人生の漂流者としての荷風であり、圏外文学としての鏡花の類いである。解釈ひとつでメインカルチャーをすらサブカルチャーに歪めてきたといえようか。さらには、石井隆から片山健に至るカウンター、あるいはアドバーサリーな文化のなかにわれわれは深く身を置いてきた。
 昔、売れる本はよい本だといわれてきたが、その伝でいけば、ケータイ小説や漫画は金になる素晴らしい商品なのである。それをいまさら敵対的文化と呼ぶひとはいまい。謂わばサブカルチャーがサブでなくなり、商業主義の一見本として大手をふって跋扈するようになった。そしてそれを扶け、大衆に媚び諛うのが大型書店である。私は個人至上主義的な共同体感覚に基盤を置く三月書房のような本屋を好ましく思う。望むべくもないことだが。


2008年03月06日

個人商店  | 一考   

 「おそらく最後の世代になるのではないかと思っている」と書いた。季節の変化を反覆しつつ月日は容赦なく推移してゆく。ことは内燃機関に止まらない、二十年後に姿を消すのは書店であり、出版社であり、書物そのものだろうと思う。ローカルなはなしで恐縮だが、一月十四日に神戸の後藤書店が店仕舞した。黒木書店主は下戸だったが、後藤書店の親父とは飲みに行ったことがある。そしてはなしは古書店にとどまらない、コーベブックス、コーベブックスの常務だった村田耕平さんが営む三宮ブックス、丸善、流泉書店、漢口堂、日東館、宝文館等々が次々と姿を消していった。そういえば、コーベブックスの北風一雄さんの息子さんが営んでいた南天荘書店も閉店した。昔、ジュンク堂の三宮出店に最初に賛意を示したのは他ならぬ北風一雄さんと村田耕平さんだった。結果、自らの首をしめることになったのか、それとも早晩訪れるであろう滅びに身を涵していたのか。個性が売りの書店は三月書房のごとく、個人商店でなければならぬ。そのジュンク堂だが、今際の綴じ目にとどめし徒花のようなものと思っている。
 繰り返すが、書物はやがて姿を消す。私はよい季節に本を造ったと思う。印刷の、手漉和紙の、装訂材料の現状を顧みるに、七〇年代が間違いなく最後の機会だった。その折の残滓で九一年に最後の限定本を造った。爾来、装訂の機会はあっても著者と折り合いがつかず、そのまま投げ出している。八〇年代以降、湯川成一さんが拵える書物を除くと鑑賞に堪えるものはほとんどない。表装を取り繕ってはいるものの、書物としての体を成していない。所詮はマスプロであって、気配りというか、本への情愛がなにひとつ感じられない。
 昔、書物というメディアがあって、かように重く不便なものを慈しむような奇妙な人々がいたらしい、と取沙汰される日は近い。


2008年03月04日

マスタング登場  | 一考   

 自宅のネット回線を有線からイー・モバイルに切り換えようとして申し込んだが繋がらない。同様にYahooのメールアドレスの変更も出来ない。そしてドメイン・ウェブサービス・サポートへの更新も繋がらない。しばし考え込み、OSXで起動したところ、なんの問題もなく繋がった。はなしは簡単で、OS9は見捨てられたようである。
 私は守旧派ではないが、新しいものを次から次へと購入できるような身分ではない。またかような物欲もない。パソコンも電話も車も単車も単なる道具であって、新型を贖う気持はまったくない。車も十万キロを軽く超え、今回の車検ではタイミング・ベルトとウオーター・ポンプを換えなければならない。自然吸気の車なので四、五十万キロは乗るつもりである。それゆえ消耗品は十万キロ毎に交換しなければならないが、今回は一時抹消登録、俗にいう十六条抹消にすることにした。四輪駆動とは暫しのお別れで、抹消中は木村さんから頂戴した車を利用させていただく。
 ところで、左ハンドルと右ハンドルの切り換えはそう巧くいくものではない。ウィンカーを出そうとしてワイパーを操作するようなミスは幾度となく起こる。もっとも、マスタングに把手は一本だけである。問題は国産車に乗ったときである。マスタングのダッシュボードは徹底的に合理化されている。追加された機能はパワーウィンドウと集中ドアロックのみで、他に余分なものはなにひとつ付いていない。さすがに「フルチョイスシステム」で造られた車である。金持ちには金持ちなりの、貧乏人には貧乏人なりの良くできたシステムといえよう。
 V型六気筒三、八リッターエンジンの低回転からの強いトルクは日本車にはない魅力であるが、その代償として高回転によって高出力を得る同クラスの日本車と比べて、中低速走行では燃費が悪い。そのかわり、エンジンは長持ちしそうである。通勤に使っている鉄馬は一万二千回転で、六千回転を下回ると加速しない。スクーターが良い例で、三万キロも走るとエンジンはお釈迦になる。他方、マスタングは五千五百回転以上は回らない。かつて乗っていたターボ車のように白煙を吐く心配は限りなく低い。
 ガソリンの値はこれからも上がりつづける。そして、マスタングの燃費の悪さは足癖とオイルの選択でどうにでもなる。それよりも、ポンポン蒸気と呼ばれたツーサイクルの焼き玉エンジン同様、現行のレシプロエンジンは二十年後には姿を消すだろう。それまで生きてもいまいが、レシプロエンジンに乗る、おそらく最後の世代になるのではないかと思っている。

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