薫製を作った。終日作っていたので家中が桜と林檎のチップの香りでむんむんする。やはり店で作るべきだった思うが、店には冷凍庫がないので往路運ばなければならない。その手間を考えると拙宅で作るしかない。
豚のバラ肉と合鴨と砂胆を作った。実はミミガーのスモークが好物なのだが、人気がない。明石ではスモークチーズも作っていたが、こちらは一日しか持たないので止めた。上京してから料理への思いが変わった。関西では当たり前のお任せが東京では通用しない。このことは既に掲示板で書いたが、「持てなし」への考え方が基本的に異なる。客を遇すのは店側の仕事の筈なのだが、東京では客が客をもてなす。速いはなしが、客のチョイスに店が合わせるのである。これでは料理は作られない。居酒屋のように定番を何種類か用意して撰ばせる風を装わなければならない。
一ツ木通りで、一年頑張ったものの諦めてしまった。開店時、小鉢ものを五種類ほど用意したもののまったく需要がない。そこで居酒屋メニューに切り換えたところ、そこそこの評判だった。ただ、それを料理とは言わない。今回、モルト・ウィスキーの専門店にしたのはそうした理由があった。食後酒であれば、料理のことは考えなくて済む。バーはナッツやドライフルーツを出しておればよいのである。それへの抗いがスモークであろうか。抗いはひとつあれば充分である。
料理を作りたくなれば割烹を造ればよい。そのような機会があるかどうかは分からないが、むげに夢を抓む必要もあるまい。