旧12年ものからはじめたのが、よかったのか悪かったのか、終日コスメティックな香りに悩まされた。なにを飲んでも、初手の香りが最後まで付きまとって離れない。日曜日になっても酒を飲むことが叶わなかった。揚句、胃薬服用のやむなきに至った。
ゲラン社製の夜間飛行とミツコ、シャネルの15番、その辺りの香水を常用する女性と私は酒を飲まない。酒の香りが分からなくなるからである。これはモルト・ウィスキーを飲み出すはるか前からの、謂わば庭訓の一である。ベルガモットが嫌いなわけではない、アールグレイを嗜むこともある。ただ、程度によるのである。
ボウモアはモルト・ウィスキーの夜間飛行である。似た酒にエドラダワーとグレン・ギリーがある。ちなみにグレン・ギリーは「草木染に用いる露草や湿った海苔、ボウモアをより淡白にした甘くコスメティックな香り。バイオレット・フィズを想わせるややオイリーな味わい。バランスはよいが浅く軽いフィニッシュ」となる。いずれにせよ、偶に少量飲むにはよい食後酒である。しかし、ボウモアを十二種類、これは残酷な責め苦にしかならない。へどもどさせられたモルト会だった。
今回は端境期のボウモア、そして新生ボウモアの飲み会はもうしない、催したくないのである。ロンバードの解説に「ディスティラリー・ボトルのカスク・ストレングスほど過激ではないが、本品もサーフ系。欧州ではこちらのボウモアが人気筋。ペルノ、バスティスト、アニゼットに親しむお国柄である。強い香りが好まれるのは当然」と書いた。私がもっとも苦手とする酒はアブサンだったが、そこにボウモアも加えて置こう。