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2015年07月 アーカイブ


2015年07月31日

豆カレー  | 一考   

 薬は食後と云うが、そのことに意味も根拠もない。食事を忘れるひとはいないだろうから、薬を忘れないための食後である。わたしは朝と夜の9時に服用する、従ってその30分前に食事を摂る。1日2食だが、例外は病院行の日のみである。通院日は食前に血液と尿の検査があるため、食事は摂られない。よって、昼過ぎにサンドイッチを食べている。

 18日の土曜日は大変な目にあった。薬を服用、2時間を経て食事をした。要するに、薬と食事が逆になったのである。じゃがバターを食べたのだが、ちょいと芽が出ていた。まさか食中りとは思われないのだが、夜の11時過ぎまで嘔吐と下痢がつづき、足はむくみ、血圧は102の60まで下がった。
 日曜に下痢は治まったが、腫れ上がった脚はどうにもならない。半年続けたリハビリが一挙に元に戻ってしまったようである。筋肉痛は今なお続いているが、取敢えず、20日ぶりにリハビリを再開する。

moonさんへ
 何時ぞや当掲示板で書いたカレーが、再入荷している。チャナマサラ(ひよこ豆)、ダルフライ(レンズ豆)、ダルマカニ(黒レンズ豆)の3種、神戸物産が輸入したインドカレーである。今回は若干値上がりして300グラム185円になっている。


2015年07月20日

サイクルグローブ  | 一考   

 昔からオートバイ乗車時は自転車用のグローブを用いている。よほど寒いとき以外は一貫してメッシュ素材、衝撃吸収パッド、マジックテープ付きハーフフィンガータイプである。
 日常生活でわたしはコート、セーター、パッチもしくはタイツ、手袋は使わない。北海道を除く日本の気候で必要としないからである。また、ジェットヘルを愛用してい、フルフェイスヘルメットは被らない。首にタオルを巻けば十分だからである。ジェットヘルではイタリアのGIVI(ジビ)が具合良く、性能もすぐれているように思う。

 プロテクターがバイク用グローブは外に、自転車用は衝撃吸収パッドが内側に付いている。プロテクターは性能に比例して指の自由度が落ちる。また、バイク乗りは概して皮革を好むが、革製グローブは相撲取りのまわし同様、洗濯ができない。わたしは洗える材質のグローブのみ用いる。
 今ひとつ大事なのが、自転車であれオートバイであれ、雨天でも乗る乗り物である。近頃はセイラスのようなレイングローブも開発された。モンベルのジャケットと合わせれば乗り手の体力を強力にサポートする。年中乗っていただきたい二輪である。


2015年07月14日

死んだふり  | 一考   

 フランスパンが食べたくなって、止せば良いのに近所のスーパーへ買い出しに。オートバイで行ったのだが、目眩いがひどくて動かれなくなってしまった。スーパーの玄関に自販機と長椅子が置いてあり、そこで長々と寝そべること、1時間半。注意も何も受けないのを良いことに、死んだふりを続けた。
 リハビリテーションはずっと中断している。リハビリ中に何度も血圧を計り、その度に一喜一憂するのが面倒になったのが理由である。抗生物質の投与が済むまで、おとなしくするに如くはない。


「酒鬼薔薇聖斗」  | 一考   

 「絶歌」について書いたのが理由で、「酒鬼薔薇聖斗」と題するメールが送られてくる。メールには「神戸児童殺傷事件、少年Aに印税を渡さない方法」とのサブタイトルが付されている。かつて2ちゃんねるにリンクが張られていたが、今は異なるようである。

この本の出版について「世に出すべき本ではない」と批判が噴出している。
特に注目されているのが、著者が受け取る「印税」の使い道である。
出版元の太田出版によると、
男性は「被害者への賠償金の支払いに充てる」と話しているそうだが、支払いに充てる義務があるわけでもなく、「金儲けのために出版するのは良くない」という批判もある。
アメリカでは、犯罪者による手記の出版など、自ら起こした事件に関連して得た利益を差し押さえ、犯罪被害者や遺族の訴えに基づいて、
補償に充てる「サムの息子法」と呼ばれる法律が定められているが、
実際のところ、日本にはそのような法律はなく、
この本の出版で印税で得た収入が遺族に支払われる確証はなく、そのまま加害者の収入につながる可能性だってあります。
私は本を購入すると犯罪を利用した金儲けに加担する形になるのが嫌なので、購入することはありませんし、
心情としては利益全額を没収した上で遺族に渡すべきだと思いますが、
あなたはこの本の出版に賛成ですか?反対ですか?
本を購入すると加害者へ印税が渡ることになりますが、
印税が渡らない方法があるとしたら、あなたはこの本を読みたいですか?
不特定多数の方への案内は出来ませんので、
下記フォームよりメールアドレスをご登録いただくと、
「絶歌」で加害者へ印税が渡ることなく絶歌を読める方法をお教えします。

 文中、不特定多数の方への案内は出来ないと著されてい、アドレスの紹介は節えるが、以上がメールの内容である。
 この種の違法なコピーにわれわれは馴らされている。映画、ドラマ、アニメから音楽に至るまで、ユーチューブをはじめ枚挙に暇がない。よって、コピー自体にわたしは意見を持たない。ただし、「少年Aに印税を渡さない方法」との言い分には反対である。重度の「自閉症スペクトラム障害(ASD)」からの脱却を願い、生き延びるための数少ない手立てのひとつが執筆だと思うからである。
 佐世保の同級生殺人事件の少女も少年Aと同じく、第3種少年院送りとなった。そのことが示唆するのは「感情の存在しない世界」でしか生きられないサイコパスのような機能不全に陥っている点である。機能不全であって、「心の闇」といった心理的な問題ではない。要するに、少年Aや佐世保の少女の病に完治はない。そのような病を一般常識で批判するのは止めた方が良い。自己陶酔や自己顕示と云った紋切り型の衍義など、なんの役にも立たない。
 香山リカ、『絶歌』から「元少年A」の脳の機能不全を読み解く、との文章が日刊スパに掲げられている。おそらく、「絶歌」について真摯に著された唯一のエッセイでないだろうか。

 http://nikkan-spa.jp/878891


2015年07月13日

静かな海作戦  | 一考   

 中国海軍ジャンウェイII級フリゲート艦から、東シナ海で警戒監視中の海上自衛隊護衛艦に対し火器管制用レーダーの照射があった。米紙によると「先週中国海軍艦船が日本の軍艦を火器管制レーダーでロックオンした(A Chinese military vessel last week locked its weapons-targeting radar on a Japanese warship)」とある。この事件はウィキペディアにも著されている。
 ここで問題なのはアメリカ国防省高官によると、もしも同じ照射が米軍に対してなされたら米艦は即火力で反撃していた、と。

 南シナ海におけるサンゴ礁を含めた中小の島嶼の埋め立て、軍事基地化が中国によって進められている。アメリカは阻止しようとしているが、実力行使以外に方法はあるまい。その実力行使の作戦名は「静かな海」。一方、中国軍高官は局地戦なら一日で米軍を制圧できると公言して憚らない。
 安保法案の成立を急ぐ理由は静かな海作戦への参加を目指してのものであって、法案の対象はホルムズ海峡にあるのではない。盧溝橋事件同様、宣戦布告をおこなわない紛争を目指している。


2015年07月10日

尿沈渣  | 一考   

 尿検査の白血球が異常値である。随尿の沈渣測定方法の結果がひどい。この尿沈渣は昔、腎臓や尿路系の病気の診断ならびに病状の経過観察で昵懇の検査法である。
 尿スクリーニング検査で蛋白あるいは潜血が陽性、もしくは尿の混濁によって疑われることは。膀胱炎、尿路系の細菌感染症である。前述したように、薬の服用で様子を診るしかない。

 クラビットとフリパスは同時に服用すると、確実に交通事故を起こす。埼玉での事故は物損だったからまだしも、もしもあれが免許を取得して2、3年以内だったなら、確実に免許証は返納していたと思う。
 いずれにせよ、薬物は怖い。今回はリハビリテーションを優先し、服用を3度に分けることにした。医師の許可を得たので、降圧剤は一つを除いて夜9時に服用。朝9時と夜9時はそのまま、クラビットとフリパスはリハビリを終え帰宅後に飲むことにする。それにしても、まるで下剤のよう、悪夢の超特急である。
 クラビット服用中の車の運転は田中整形と拙宅の往復、銀行と最も近いスーパーとの往復に限定する。田中整形でタクシーを利用するように云われたが、当地に流しのタクシーはいない。明石駅から呼ぶことになるので使われない。

追記
 東京へ行きたかったのだが、残念。
 本日、再度リハビリ中止。どうやら収縮期血圧が100mmHgを下回ると運動は不可能のよう。高いなら高い、低いなら低いで安定しないとどうにもならない。


2015年07月08日

危険な薬  | 一考   

 先月の低血圧が理由で降圧剤を入れ替えることになった。そちらは良いのだが、今週はいろんな症状が新たに出現した。尿の濁りと前立腺の肥大である。入院は勘弁していただいて通院で済ませることにした。とりあえず、前者にクラビット、後者にフリパスを処方。
 前立腺が肥大して膀胱を圧迫、頻尿もしくは残尿感が残るとのことだが、一日に2リットル超の水分を摂れば頻尿になるのは当たり前。残尿感は心当たりなく、エコー検査にも異常は見られなかった。クラビットは、ニューキノロン系合成抗菌剤で、「万能薬」という表現が一番合う抗生剤。膀胱炎ではないが、なんらかの炎症が起きているに違いない。
 服用は問題ないのだが、このふたつの薬は目眩い、立ち眩み。失神を伴う。埼玉で経験済みだが、車の運転にあってかなり危険な薬である。今日はふらつきがひどく、買い物にすら行かれない。22日までは足繁く病院へ行かなければならないが、要注意である。


2015年07月04日

夢を孕む女 荷風と山田一夫  | 一考   

 十一月廿六日。暴暖初夏の如し。昨夜深更より今暁に至るまで眠られぬがまゝに山田一夫氏が短篇小説 集夢を孕む女を通読す。現代新進作家の作品にして、其文章構想両つながらこの書の如く余を感動せしめたるものは無し。実に近年の好著と謂ふ可し。往年谷崎君の刺青(籾山書店梓)を読みし時、又初めて北原白秋君の散文小品をよみし時の如き感動を催し得たるなり。直に手紙をかきて作者の許に送りぬ……

 おのが胸襟をひらくことを潔しとせず、市井に隠れ孤棲を懐かしみ、およそ後進の作家には目もくれなかった永井荷風から、例外ともいうべき讃辞を呈された作家の一人に山田一夫がいる。昭和七年十一月より十年六月にかけての荷風日録『断腸亭日乗』には、一夫との十数度におよぶ款語のもようが記されている。一夫がかねてより先達として崇めていた荷風と初めて知合ったのは、当時春陽堂から再劂された『西遊日誌抄・新帰朝者日記』ほか四冊の荷風本の奥書をしたためた帚葉神代種亮の仲介によるものと想われる。昭和七年といえば、初老を過ぎて荷風は五十三歳、一夫が三十八歳の時である。この時期の荷風は尿中に蛋白質を有し、また脚気の徴候あり、不眠症のために創作欲がいちじるしく衰えたという。同年十一月には青山脳病院へ出向き、齋藤茂吉の診察を受けるに至っている。『断腸亭日乗』にも「……夜眠る事能はざれば昼の中時を定めず一二時間位椅子にもたれて眠るやうに力むるなり。されば読書も心のまゝならず、筆を持つことはこの日誌を記するがせいぜいにて、小説つくるが如き事は早や思も寄らぬことになりぬ。いかに悲しむもせんすべなし……」と間断なく苦衷のほどを洩らしている。狷介を唯一無二の信条とし、ことさら文士との交わりを忌みきらった荷風が、一夫を数すくない知己の一人として遇し、あまつさえ頌辞を示すなどという挙に出たのは、かかる健康状態と年齢からくる気力の衰えを鼓舞させる契機を一夫の作品に求めたためなのかもしれない。

 山田一夫は本名を山田孝三郎といい、日清戦争の始まった明治二十七年、京都は京極に近い中京に生れた。生家のあたりは今なおしもた屋の多い閑静な町並であり、一夫の生れる数年前に呉服商を廃した父は、その後家作の経営にあたった。また三人の男兄弟はすべて七、八つの頃までに歿くなり、ただ一人残された一夫は女中ばかりを相手に乳母日傘で育てられたという。この少年期の体験は、京極で目にした操り人形や地獄極楽、それにパノラマやジオラマなどと共に、後年一夫の作品に大きな影響を与えることになる。通常の文学事典に独立の項目はおろか著作すら掲載されていない一夫には、私が知るところでも三冊の著書しかない。まず昭和六年十月三十日に白水社から上梓された作品集『夢を孕む女』、ついで昭和十年五月十日に岡倉書房から上梓された作品集『配偶』、下って昭和三十六年四月一日、明治の頃の京都の市井の風俗やその地に住み暮した者の生活感覚などを描いた随筆、それに戦後の短篇を纏めた『京洛風流抄』が白川書院より上梓されている。そのうち表題作のほか十四の短篇を収めた『夢を孕む女』には、荷風によってすこぶる含蓄に富む寸評が各々の作品に加えられている。冒頭に引用した『断腸亭日乗』に見られる「手紙」がそれである。詳しくは岩波書店版『荷風全集』第二十五巻を繙かれたいが、その尺牘のなかで荷風は、支那小説とフランス象徴派の作品とを合わせたような趣あり、また京都固有の幽艶な世界が描かれており、プルウスト、ジイド、ポール・モーランの作品となにかしら似かよったような心持がするとの読後感を記している。たしかに象徴主義好みの”宿命の女”は一夫も好んで用いるモチーフのひとつだが、男を破滅にみちびくというよりは育むといった様相が濃く、むしろロマン派作家の作品、たとえば泉鏡花などにより近しい資質があるように思う。まずは表題作「夢を孕む女」のあらすじを追ってみよう。
 ……陶工玉川の姉美佐子は、東京のある実業家に嫁いだものの、二年たらずで不縁になり、今は京都の郊外に閑寂な隠遁生活を送っている。理想主義的な一面があり、何かにつけて感受性が強く、自由を束縛されるのに堪えられない美佐子は、その離縁をむしろ喜んでいる。一方、母と死別した「私」は、ただ侘しく無為な日々を過していた。そんなある日、姉の依頼を受けて玉川は、友人である小説家の「私」を二年坂の姉の住居「幻華荘」へと連れて行く。躯の均斉のよくとれた唐美人を思わせる姉の美しさに「私」は軽い眩暈を覚える。そして美佐子は今後の創作への協力を約し、現実の生活からの乖離を奨める。その日を境に「私」の生活はまるで一変し、女にしては珍しく明晰な頭脳の持主である美佐子の啓蒙によって幾多の作品を産み出すことになる。ーー十年後、美佐子は逝き、遺言によって四十九日を「幻華荘」でおくることになった「私」は、日夜美佐子の俤を夢に描き続けている。そして書き綴った作品の大半もまた、美佐子の孕んだ夢であった……。
 小説の舞台になった二年坂は、産寧坂と共に高台寺南門の霊山道から清水坂へ至る南北の小径であり、大正六年東京を遁れた竹久夢二と笠井彦乃との最初の隠処となったところでもある。作品の緊密度と主人公の性格描写という点では、書中まず「和歌庵挿話」を揚げるべきだろうが、あえて私の好みにより一作を推すとすれば、やはり「夢を孕む女」であろう。「幻華荘」周辺の描写は、幻想的な女性美佐子が住むにふさわしく情緒豊かに描かれており、官能的な美しい夢を書き綴ったいま一人の同時代作家一戸務の「竹藪の家」を髣髴させる。また特に荷風が好んだであろうと想われる第四章のあぶな絵的場面は、日常的現実よりも夢を称揚してやまぬ一夫の持味がいかんなく発揮されている。そしてこのロマン主義的な傾向は、その後に続く作品集『配偶』にふくまれた秀作「配偶」「耽美抄」へと助長されてゆくのである。
 『配偶』もまた前作品集と同じく、一夫をして「華麗な底に渋味のある装幀」と言わしめた小穴隆一の手になる美しい木版画で飾られており、表題作のほか九篇の短篇が収録されている。その表題作の「配偶」は、三度の結婚生活に失敗した男が、ある日妻縁を占ってもらい、晩婚の宿命なればあなたの縁は五人目でないと納まらないと告げられる、それでは四人目に悪かろうと衣装人形を相手に祝言を挙げるという話であるが、白無垢の裲襠を着て深い綿帽子に顔を隠した人形が、枕辺で次々といろんな女に変身してゆくという後段の物語めいた情景は、なかなかに技巧が凝らされており、豊麗な才筆と相まって文字通り珠玉のような一篇となっている。「耽美抄」の方は幽婉な情趣に溢れる作品であり、女嫌いの耽美主義者銀二が、覗きからくりのある湯殿で薄い倶利迦羅紋紋の肉襦袢を身にまとった女から背中を流される場面などは、草双紙のような頽廃的雰囲気を漂わせていて美事である。おそらく一夫自身、「夢を孕む女」と同じ系列に属するこの作品に特別の愛着を持っていたものと想われる。

 高見順の著書『昭和文学盛衰史』(第一巻第十一章・芸術派の群)には、中村武羅夫を中心に発行された文芸雑誌「近代生活」と一夫との関係が詳しく記されている。
 『近代生活』は昭和四年四月に創刊されたのであるが、四年四月というのは、前年の三・一五事件につづく四・一六の大検挙、大弾圧のあった月である。その月に反プロレタリア文学運動の「新興芸術派」の母胎たる『近代生活』が結成されたということは、偶然のようでまた偶然でないとも言える。『近代生活』には、前身の雑誌があって、それは『近代感情』であるが、編集は梶原 勝三郎、そして経済上のパトロンは京都の素封家山田一夫であった。
 文中にも触れられているように、「近代感情」つづいて当初一夫がパトロンとなった「近代生活」は、翌年四月に新興芸術派倶楽部が結成されるや、同派の機関誌的存在としての変貌を遂げる。龍胆寺雄を闘将とした、いわゆる「新興芸術派時代」を迎えるわけである。しかし一時の栄耀を担った同誌も昭和七年の夏には廃刊のやむなきに至る。そして新興芸術派の小説の巧者と謳われた浅原六朗や楢崎勤などと並んで創刊時からの中心的メンバーあった一夫もまた、その作家としての消長を「近代生活」と共にすることになるのである。
 『耽美抄』を上梓した後の一夫が、他の新興芸術派の作家と同様に、近づいてくる軍靴の跳梁に沈黙を余儀なくされたのか、それとも荷風というあまりにも強烈な毒を前にして自らの作家生命を断つしかなかったのか、その間の消息はつまびらかとしない。ただ、戦後の一夫が著した短篇「別室風流」(『京洛風流抄』所収)には、黄道と号し、新古典感覚派を以て任じていた頃の官能的な夢も豊麗な筆致もなく、かつてロマン主義的な昂揚に彩られていた幻想小説は、単に生活観の甘さを露呈するにとどまる凡庸な花柳小説となり果ててしまうのである。

   「琴座」 第35号(第10号) 琴座俳句会 1979年10月刊

追記
 1968年10月、大月雄二郎さんの紹介で生田耕作との知遇を得る。翌年、山田一夫の未発表作品が白川書院にあると人文書院で教えられ、生田耕作と白川書院を訪ねる。耽美抄の腰巻に「生前著者より編者に託された推敲加筆原稿に基き」とあるのがそれに当たると思うが、わたしは「耽美抄」を読んでいないので定かでない。
 「初稿 夢を孕む女」との著書が発行されたらしい。今のわたしは興味がないが、昔山田一夫について書いていたのを思い出したので再録する。


集団ヒステリー  | 一考   

 「絶歌」の内容に関しては後ほど触れるとして、ご指摘の通り、罪を購うのは不可能だと思います。現行法に則って裁かれたわけですが、それは法律上の問題であって、加害者被害者共々、こころの問題が解きほぐされることはないと思います。
 ひとは自己への執着が強く、変わろうとしないタイプと変わり続けようとするタイプに分かれると思いますが、少年期に犯罪を犯すひとは前者が多いようです。特に彼の場合、性障害(性的サディズム)が事件の引き金になっています。性愛はひとが持つ属性のうちでもっとも変わりにくい根本的性質です。
 関東医療少年院で矯正教育を受けた元少年Aの仮退院が2004年3月、本退院を翌月に向かえた12月、カウンセラーの精神科の女医に対する暴行未遂事件を起こしている。同月24日、法務省は「少年Aの保護観察が31日で終了し、年明けに完全に社会復帰する」との見通しを発表。事件は闇に葬られた。性の対象が死者から生身の人間に変わったこと自体が矯正の成功の証だとでも云いたげである。
 そもそも、元少年Aが犯罪者であろうがなかろうが、更生しようがしまいが、そのようなことはどうでも良い。私が関与すべきことでないし、関与できることでもない。況んや、少年犯罪に前科はつかない。
 今回の「絶歌」非難の大合唱はネット社会固有の集団ヒステリーの相が明らかである。新潮45の元編集長はテレビで「絶歌」にはナルシシズム以外なにもないと。康芳夫は「絶歌には何があるというのか。あるとすれば極めてチープなヒロイズムと自己陶酔」と評している。「絶歌」の文中、「僕は、僕であり続ける、その日が来るまで・・」「どこへ行っても、僕は、僕からは逃げられなかった」等の文章はあちらこちらで見受けられる。殊更に自己顕示欲や自意識の過剰さを示唆したところでなんになろうか。また、どうして加害者被害者との二項対立でしか捉えられないのか。違った弁証がいくらでもあろうにと思う。
 犯罪者が本を出版することはこれまでにもあった。宮崎勤、佐川一政、市橋達也など枚挙に暇がない。ただ、今回の著書は文章の巧みさと構成力の非凡さに於いて永山則夫や大道寺将司(散文は頂けないが「棺一基」は傑作)のそれに拮抗する。
 29頁の「それぞれの儀式」でタンク山や向畑ノ池を描写している。往時のちっぽけな決して美しいとは云えない池を知っていればこそ云えるのだが、彼の手にかかると途端にきらきらと輝き出す。

 雨上がりのタンク山の美しさは壮絶だった。雨を啜って湿り気を帯びたセピア色の腐葉土が、雲間から降り注ぐ陽の光のシャワーをそこかしこに弾き散らし、辺り一面、小粒のダイヤを鏤めたように輝いて、僕の網膜を愛撫した。
 向畑ノ池では、そよ風に嘗められ小刻みに痙攣する水面に、池のぐるりを取り囲む樹々の木の葉の隙間から、我先に飛び込んだわんぱくな木洩れ日たちが泳ぎまわり、サイケデリックな光の帯がゆらめいた。

 彼の中にあって懐疑や弁証と云った概念が未だ未分化のままである。その辺りに助け船を出す編輯者が現れれば、すばらしい物書きになる。昨今騒ぎを起こしている百田尚樹などよりもよほど卓れた作家になると思うのだが。

追記
 「再度山学院」で検索すると、「今は亡き少年院 - peps!」との項目がトップにやってくる。ですぺら掲示板で著した「端折り 」のうち、再度山学院に関する文章が句読点までそのままの形で記載されている。しかも、「当サイト内に於ける当サイト管理人が作成、編集した文章一切の転載又は勝手な引用を禁止する」とあって「違反者に対しては厳重に対応させて戴くものとし、場合に因って警察当局若しくは弁護士に通告の上、介入手続きを踏まえるものとする事をご了承願います」とご丁寧に著されている。ですぺら掲示板にはそのような無粋な「サイト内遵守事項」の書き込みはない。どうやらですぺら掲示板の著作権をお持ちのようである。もっとも、かような例は過去いくらでも存じ上げているが。

 ちなみに、「神戸再度山学院と同じような施設がかつて静岡にもあった」と書いたのは静岡県安倍郡美和村にあった静岡少年院で、現在の駿府学園のことである。共に、院長は木村さんのご尊父。

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