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2009年04月 アーカイブ


2009年04月25日

ですぺらモルト会解説(タリスカー)  | 一考   

 スコットランドは小さな国で、人口は約500万人。車で南北を縦断しても6時間、東西なら2時間掛からない。タリスカー蒸留所はスコットランドの西端、アイランズ最大の島スカイ島にある。気候は本島と異なり海洋性で、湿度が高く、激しい風が吹く。
 冷却工程に近代的なコンデンサーでなく、伝統的なワームタブを使うのがタリスカーの特徴のひとつ。冷却水が入れられた大きな桶の中をパイプが螺旋に走り、蒸留されたニュースピリッツは液化される。コンデンサーと比してワームタブは銅管が短く、銅に触れる時間が短くなる。ウイスキーはよりヘヴィーに、香味は強く残される。
 蒸留所のキャラクターを大事にしようとの姿勢は熟成にも表れている。熟成にはシェリー樽とバーボン樽が用いられるが、カスクの影響を避けるため共にリフィルカスクを使う。樽の役目の「除去すること」と「加える」こととのバランスに常に留意している。

 創業は1830年。スコットランド中で採用されていた伝統的な三回蒸留法が二回蒸留になったのは1928年頃だが、蒸留法の変更がウィスキーに影響を与えなかったとされる。1941年、大麦を食糧として確保するため、戦時下のウィスキー製造が中断される。1960年、火事により蒸留棟が損壊。焼失した五基の蒸留器は厳密に復元され、石炭窯を用いた、元来の外部加熱方式を引き続き採用する。1972年、フロアモルティングを廃止。以降、グレンオード・モルティング工場から麦芽の供給を受ける。ピートレベルは中程度、スモーキーだがアイラモルトほど重くはない。二基のウォッシュスチルと三基のスピリッツスチルの加熱システムは、重油ボイラーを用いた蒸気加熱システムに変更。1989年、通常より高いアルコール度数45.8%でボトリング。この年、タリスカー10年がクラシック・モルト・シリーズのひとつに選ばる。それまでは8年ものをシングルモルトとして販売していた。


01 タリスカー10年(ユナイテッド・ディスティラーズ)※
 クラシック・モルト・シリーズの一本、45.8度のディスティラリー・ボトル。
 スモーキーな潮の香、頭頂に抜けるシャープな辛口。舌の上で火花が弾けるパワフルな後口、妥協を許さない個性。
 ディスティラリー・ボトルは2003年8月からラベルが新しくなったが香味に異同はない。アモロソ・シェリー樽を用いたダブル・マチュアードと10年(フレンド・オブ・クラシック)、15年、18年、20年(蒸留所限定ボトル)、25年(蒸留所限定ボトル)、28年のカスク・ストレングス等々が頒されている。

02 タリスカー '88(ダグラス・レイン)
 オールド・モルト・カスクの一本。11年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。限定374本のシングル・カスク。

03 アイランド10年(シールダイグ)
 ウィリアム・マックスウェル社のリリースになるタリスカー。43度。
 シールダイグとは西ハイランドにある風光明媚な漁村。アルマニャックのボトルを用い、ギフト用として仏蘭西国内で販売されている。
 ディスティラリー・ボトルと比して、アルコール度数が低い。その分、香りがいささか弱いのは否めないが、シャープで飲みやすいのが利点。

04 タリスカー '90(ハート・ブラザーズ)
 12年もの、46度。
 ラベルにはご丁寧に二箇所にカスク・ストレングスと印字されているが、これはなにかの間違い。甘味が強く、やさしく美味なタリスカー。

05 アズ・ウィ・ゲット・イット8年(イアン・マクロード)
 オーク・カスクの8年もの、59.0度のカスク・ストレングス。中味はタリスカー。
 アズ・ウィ・ゲット・イットの商標をイアン・マクロード社が買収、当初はスペイサイドのモルトをボトリングしていたが、最近はアイラ・モルト、それもラガヴーリンを専門にボトリングしている。
 タリスカーには珍しく微かにミントの香り。

06 マクローズ'89(ハンジアティシィ)
 04年のボトリング。バーボン・カスクの14年もの、46度。384本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
 ハンジアティシィはイアン・マクロードの独向け。他に85年蒸留の18年もの348本、86年蒸留の17年もの264本あり。素顔のタリスカーを識るに最適。スコマ社のタリスカー同様、胡椒と荒塩の強烈な味わい。ラスト・ノートに烟るが如き甘味。

07 タリスカー・アモロソ '91(ユナイテッド・ディスティラーズ)※
 ザ・ディスティラーズ・エディションの一本。 45.8度。
 U.D社のクラシック・モルト・シリーズのダブル・マチュアード版。本品はアメリカンオークの樽で熟成後、フィニッシュにアモロソ・カスクを用う。

08 ヘブリディーズ '83(キングスバリー)
 02年のボトリング、18年もの。ホグスヘッドの46度、300本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
 フィニッシュに独得の甘味。

09 タリスカー175周年記念※
 45.8度のディスティラリー・ボトル。
 タリスカー蒸留所は以前スカイ島の北部に位置していましたが、1830、31年に現在の位置へ移動。そこからの175年を記念したオフィシャルボトル。わが国へは600本が入荷。

10 タクティカル '79(ダグラス・レイン)
 オールド・モルト・カスクの一本。21年もの、50度のプリファード・ストレングス。312本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
 オールド・モルト・カスクはタリスカーのような刺激が強いモルトも優しく仕上げる。本品も例外ではなく、ずいぶんと熟れたタリスカーである。

11 タリスカー '92(ジャン・ボワイエ)
 07年のボトリング、15年もの。ワンショット・コレクションの一本、58.7度のカスク・ストレングス。
 ジャン・ボワイエ社はフランスのみならずヨーロッパでも最大級のボトラー。設立は1993年だが、1975年にスコットランドからの輸入をはじめ、1985年にはフランス国内屈指の輸入卸業者に成長、スプリングバンクやボウモアなどの正規代理店になる。現在では数種類のレンジ(ラベル)で総計50種類以上に及ぶ多彩なモルトの品揃えを誇る。同じヴィンテージで14年もの加水タイプあり。

12 タリスカー '81(ユナイテッド・ディスティラーズ)】※
 シェリー・カスクの20年もの、62.0度のカスク・ストレングス。9000本のリミテッド・エディション。ボトリングは2002年末。
 2001年には75年蒸留の25年もの、59.9度のボトルが6000本頒されている。また、1999年には89年蒸留の10年もの、59.3度のカスク・ストレングスがフレンド・オブ・クラシックの一本としてボトリングされている。一連のシリーズのなかでは本品がもっとも美味いが、ちょいと美味すぎて気になる。


2009年04月21日

ですぺらモルト会  | 一考   

4月25日(土曜日)の19時半から新装開店後、十六度目のですぺらモルト会を催します。
会費は12600円。
ウィスキーのメニューは以下のごとし。詳しい解説は当日お渡しします。
タリスカーの前回の飲み会は2005年。その折にもシールダイグ社のアイルサ・クレイグやスコッチ・モルト・セールス社のタリスカーなど美味いボトルがあったのですが、今回もイアン・マクロード社のアズ・ウィ・ゲット・イット、ダグラス・レイン社のタクティカル、ハンジアティシィ社のマクローズ、キングスバリー社のヘブリディーズ、ジャン・ボワイエ社のカスク・ストレングスなど結構なボトルが揃いました。お楽しみください。
今回もボトルの差し替えがあるかもしれません。なお、夕方に土屋守さんとお会いするのでモルト会を三十分遅らせます。

ですぺらモルト会(タリスカーを飲む)

01 タリスカー10年(ユナイテッド・ディスティラーズ)※
 クラシック・モルト・シリーズの一本、45.8度のディスティラリー・ボトル。
02 タリスカー '88(ダグラス・レイン)
 オールド・モルト・カスクの一本。11年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。限定374本のシングル・カスク。
03 アイランド10年(シールダイグ)
 ウィリアム・マックスウェル社のリリースになるタリスカー。43度。
04 タリスカー '90(ハート・ブラザーズ)
 12年もの、46度。
05 アズ・ウィ・ゲット・イット8年(イアン・マクロード)
 オーク・カスクの8年もの、59.0度のカスク・ストレングス。中味はタリスカー。
06 マクローズ'89(ハンジアティシィ)
 04年のボトリング。バーボン・カスクの14年もの。384本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
07 タリスカー・アモロソ '91(ユナイテッド・ディスティラーズ)※
 ザ・ディスティラーズ・エディションの一本。 45.8度。
08 ヘブリディーズ '83(キングスバリー)
 02年のボトリング、18年もの。ホグスヘッドの46度、300本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
09 タリスカー175周年記念※
 45.8度のディスティラリー・ボトル。
10 タクティカル '79(ダグラス・レイン)
 オールド・モルト・カスクの一本。21年もの、50度のプリファード・ストレングス。312本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
11 タリスカー '92(ジャン・ボワイエ)
 07年のボトリング、15年もの。ワンショット・コレクションの一本、58.7度のカスク・ストレングス。
12 タリスカー '81(ユナイテッド・ディスティラーズ)】※
 シェリー・カスクの20年もの、62.0度のカスク・ストレングス。9000本のリミテッド・エディション。ボトリングは2002年末。

ですぺら
東京都港区赤坂3-9-15 第2クワムラビル3F
03-3584-4566


2009年04月18日

虚しさ  | 一考   

 先日、友と語らった、わたしはなにをして来たのだろうかと。きっと、このままなにもせずに朽ち果てるのであろうかと。こんな情けないはなしができるのは友を除いて他にはない。
 何者かになろう、何者かでありたいなどという願いは十七歳のときに捨てた。結果として何者にもならなかった、従って云うべきことはなにもない。意志弱行、無為徒食の輩とはわたしのような人間を指すのであろう。それにしても、六十を過ぎて何者でもないというのはいささか侘しい。偶につらく思うときがある。
 往時わたしは詩らしきものを書いていた。しかし典籍を繙けば有明、泣菫、清白がい、同時代には多田智満子や高橋睦郎がいた。昭和三十九年に「薔薇の木・にせの恋人たち」が、翌四十年に「眠りと犯しと落下と」が、そして四十一年に「汚れたる者はさらに汚れたることをなせ」が上梓された。嫉妬と羨望を持ってそれらの詩篇を仰ぎ見ていた。詩人というものに、どうにもならない隔絶をわたしは感じていたのである。その隔絶が昂じて、わたしはことばの職人になることをやめた。ことばに対して自由民主主義者となり無政府主義者となった。

 前項で触れたように、土地、ことば、民族、国家、宗教、文化、歴史、伝統などにこだわる人にわたしは近づかないよう心掛けている、たとえ親であろうとも。なぜならいずれの項目を採ろうとそこにはアイデンティティーが、そして排他性がつきまとう。自らが置かれた立場、経験、知識がものをいう世界だからである。この「立場」「経験」「知識」という概念は哲学的に問題の多い概念である。解釈いかんによって覆う領域がいかようにも伸び縮みする。
 排他とはバベルの塔以来、神がひとに与え給うた戒めから生じたものでなかったか。


寺山修司映像詩展2009  | 一考   

寺山修司映像詩展が4月25日から5月8日まで催される。渋谷のユーロスペースで映像作品24本を一挙上映。
同じく渋谷のポスターハリスギャラリーで4月25日から5月17日まで寺山修司と天井桟敷全ポスター展が催される。
案内状とポスターハリスギャラリーの招待券はですぺらにあります。声をお掛け下さい。


2009年04月17日

辻潤について  | 一考   

 おれはまじめといじめと唐変木とわからずやとおせつかいとインチキとコンチキとモンツキとシルコハットとケーザルヒゲがあまりすかんぴんばれおんとろぢいのあべろくろのろぢいのスカンポみたいな野郎はだいきらひでも向ふが好きなら仕方がないがまんして置くことにきめてるムツシユウ!
 心にもなきことは云ひたくなきものかなホトトギス おまへさんちよいとバカにおしでないよと投げ島田 汐見橋あさもやに生のどよみかな 観音は自在におはす鰻かな かなかなが鳴けば肌へに岩清水の次郎長の大股小股なり平によく似たと云はれやにさがり松の葉越の日の出かな ざっとエトセトラ。

 ご存じ辻潤の「のつどる・ぬうどる」からの抜粋だが、身辺雑記が彼にかかるとこのように化ける。個性だけの作品と云えなくもないが、個性もここまで思い切って屈折すると来歴を通り越して強烈な可視光線となる。絶望的な失意を前に、山本六三とふたりしてお腹を抱えて笑い転げたのを思い出す。辻潤読みの醍醐味はこういうところにある。講談社から文庫で「ですぺら」が上梓されたが、この種のエッセイがことごとく略かれているのは残念である。
 「のつどる・ぬうどる」は「ぼうふら以前(ぼうふらは漢字である)」(昭森社1936年刊)に収録されたが、初出は萩原朔太郎が主宰した個人雑誌「生理」である。「生理」全五号が冬至社から復刻されたのは昭和三十九年二月五日、わたしの十七歳の誕生日だった。あとにもさきにも誕生日を指折り数えたのはあの時だけだった。あれからわたしは歳を取るのを抛りだした。それが「のつどる・ぬうどる」と題された変哲な文学に対する唯一の讃辞であり私淑であった。


2009年04月15日

花の悲鳴  | 一考   

 このところヒストリーチャンネルをよく見る。先日は「新シルクロード」と「人間の戦場」の再放送を見た。前者はさまざまな民族が当たり前のように共存していたトルファンの街を民族の十字路ととらえ、後者は1948年5月のイスラエル建国以降に滅ぼされた418の村々の現状を描く。パレスチナを過去に存在し逃げ出した民族としてとらえるユダヤと歴史になったことを振り返るだけの、謂わばシオニズムとシニシズムとの残酷なまでの対比が執拗に描かれる。
 当掲示板の「はじまりです」にあって「世界二十八箇国三十二地域で殺戮が行われているなかにあって、何がいかように「めでたい」のか迂生には皆目見当がつきません」と書いたが、その殺戮のど真ん中にパレスチナの問題があるのはいうまでもない。
 かつて阪神大震災の折、崩れかけた家で父が「どこへも行かない、死ぬならここで」と依怙地になっていたことを想い起こす。父は新潟生まれで育ったのは東京、そして四度の召集を受け、満州で青年期を過ごした。その父が神戸に寄せる思いがわたしにはまったく理解できなかった。「人間の戦場」に於ける双方の土地への執着と同質のものがここにはある。土地に限らない、ことば、民族、国家、宗教、文化、歴史、伝統、そのいづれをとっても同じである。わたしはそこに精神の老いを視る。
 イギリスを相手に展開した爆弾闘争を祖国の解放と位置づけ、パレスチナのそれをテロと断じるイスラエル。解放かテロか、抵抗かテロか、そうした相対的な問題に深入りする気は毛頭ない。ただ、双方が繰り返す報復の連鎖に狂気を覚える。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教は同じ砂漠が生んだ一神教である。同じ宗教の解釈の違いが血で血を洗うことになるのなら宗教などないほうがよいに決まっている。


2009年04月09日

新寡多録  | 一考   

 昨日、一日がかりで寡多録をプリントアウト、三分の一ほどが新しくなった。なくなったウィスキーが多く、文章も大半を書き直した。ご参考いただければ幸いである。
 安かったので、新しい水を買ってきた。詳細は以下のごとし。

名称:Jamnica ヤムニツァ 採水国:クロアチア 採水地:ヤニノ・ヴレロ 硬度・PH:400.76・6
炭酸の有無:炭酸あり 
成分(/1000mL)  ナトリウム:900.3mg  カリウム:29.4mg  カルシウム:105.2mg  マグネシウム:33.6mg

 ヤムニツァ社は創業175年の歴史を持つクロアチアで最も大きなミネラルウォーターとノンアルコール飲料の生産者。原水となる炭酸水は地下500mの深さから採掘され、1772年からの歴史がある。マリア・テレジア・フォン・エスターライヒが愛飲したハプスブルグ家御用達の水、かなり強炭酸(自然)で、含有物としてはナトリウムが多いので、塩味が強く堅め。扱いは大阪の重松貿易。


2009年04月07日

キムアネップ岬  | 一考   

 「故障に対応できないようでは車に乗る資格はない」などと生意気なことを書いたが、わたしごときに対処できる症状は限られている。ただ、車には個々に問題点があって、乗る以上は知っておいた方がよい。BMWにはよく乗るので、多少の癖は知っている。水漏れ、オイル洩れ、クランク角センサーの不調なのである。二輪の場合はセルモーター、リターンスプリング、イグニッションコイルなどが損壊しやすい。
 四輪でセルが回ってエンジンが掛からないのならクランク角センサーの不具合で、二輪の始動性をよくするならセルモーターを日本電装 ND-9に交換、ついでにイグニッションコイルをDYNAに交換すれば激変する。
 新車で、それもトヨタ車に乗っている分にはほとんどトラブルはない。しかし、わたしのように中古車にばかり乗っているとさまざまなトラブルに遭遇する。たとえ新車であっても十万キロを越えれば、定番の大型出費の整備が必要になってくる。これは二輪の五万キロに該当する。北海道を走り回っていたので、五万、十万といった距離は何度も経験している。

 高速道路が千円である。八時間あれば函館へ着く。五月は積雪で走られないが、九月の連休は一週間ほど北海道へ行きたい。大雪の旭岳の初冠雪は例年二十三、二十四日である。山中のキャンプ場は寒さで震え上がる。そしてサロマ湖にはサンゴ草が真っ赤な絨毯を敷き詰めたように咲く。それまでは生きていたい。


2009年04月06日

さくら川  | 一考   

 拙宅から徒歩二分で桜の名所である。荒川左岸排水路が正式名称だが、さくら川ともいい、古くは聖前落排水路(ひじりまえおとしはいすいろ)といった。八幡橋から聖橋にかけての両岸二キロに桜並木が続き、とりわけ南端の早瀬橋と聖橋の間は美事である。そこで桜を撮ろうと携帯電話を持って早瀬橋へ行く。十枚ほど撮ったつもりが、店で確認すると一枚しか写っていない。致し方なく、その一枚をちはらさんへ送る。どこもかしこも桜だらけで、ピントが合っているかどうかすら分からない。
 彼女との連絡以外に携帯電話はほとんど使わない。一箇月に二、三通話であろうか、インターネットにも繋いでいない。しかし、役に立つこともある。いつぞやの交通事故の折、車で迎えにきてもらった。ガス欠やパンク乃至はエンジントラブルで呼びつけたりはしない。それは四輪の場合も同じである。故障に対応できないようでは車に乗る資格はない。ライトの予備、配線の予備、針金、布テープ、牽引ロープ、空気入れ、パンク修理をはじめ必要最低限の工具は載せている。工具を揃えるのは自転車で数百キロの遠出をしていたころからの癖である。おそらく、対応しきれないのは小物ではオルタネーターの羽だけだと思う。ただ事故はどうにもならない。とりわけ身体のダメージには困惑する。必要な薬剤、止血剤と痛み止めを持ち歩いていないからである。
 さて桜である。駅から近ければ拙宅で花見をするのだが、埼京線戸田公園駅から三キロは離れている。車で見送りをするとなると私が酒が飲まれない。他にも彩湖・道満グリーンパークというのがあって、ピクニック、バーベキュー、釣りを楽しむことができる。しかし、事情は同じである。


2009年04月04日

悪巧み  | 一考   

 時事問題はすぐに消去する。消すぐらいなら書かなければよいと思うのだが、腹が立って仕方ない。苛立つのは今般の小沢問題である。贈収賄事件と違って政治資金規正法違反という形式犯で秘書を逮捕するのは言語道断である。国家権力の亡者がまた永田町に現れたようである。国策捜査を命じることができるのは自民党内に二人ほどいる。戦後もっとも狡獪な政治家をわたしたちは首相にしたのでないだろうか。
 小沢降ろしをマスコミが吹聴するが、いつの世にあっても世論とマスコミは同罪である。世論とやらを無視するのはファッショだが、日清戦争、日露戦争、支那事変、太平洋戦争等々を支持しつづけたのは世論である。他方、新聞雑誌は売れなければ赤字になる。テレビは視聴率を稼ぐための番組編成をしなければならない。以前にもましてマスコミが大衆に迎合し媚を売るのは当然なのである。世論とマスコミは悩ましい問題を常に抱えている。

 円安になり、米国の株がすこし上昇しただけで経済は底を打ったと囂しい。30兆ドルとも60兆ドルとも云われる不良債権の処理が済んだかのような騒ぎである。米国にはひとりの小泉もひとりの竹中平蔵も生れていない。クレジット・デフォルト・スワップはなにひとつ清算されていないのである。エンロン、ワールドコム、リーマンブラザーズの倒産から米国の政治家はなにを学んだのであろうか。株価が5000ドルを割り込み、1ドルが75円にならないという保証はどこにあるのか。


2009年04月03日

恋の奴隷  | 一考   

 一昨夜Tさんと担当編輯者が来られて六月末に某書が出版の予定だと聞かされた。期待している書物である。そこで別のTさんにサイン会もしくは講演会を依頼したところ断わられてしまった。これには理由がある、かつて金子國義さんのサイン会をお願いした折に不始末があったからである。同じトラブルを繰り返したくない気持はよく分かるが、どうやらわたしが持ち込むはなしは懲り懲りというのが実体のようである。ところでこの実体、実相であれ、実態であれ、実状であれ、実情であっても大差ないが、要は実体を持たぬわたしに対する見事な切り返しになっている。
 料理人、編輯者、飲み屋の主人とさまざまな職業を経巡ってきたが、いまだこれが実体というものにお目に掛かったことがない。「お目に掛かったことがない」などと書けば、お目に掛かるべき実体が別途設けられているようにも思われる。しかし、どこを探してもそのようなものは見当たらない。なぜかというに、わたしは真性のちゃらんぽらんだからである。
 一昨夜、山本六三から奥村チヨ(わたしとは同年同月生れ、弘田三枝子とは生年月日が同じ)のはなしになって「恋の奴隷」を合唱、大笑いになった。時代は一億総白痴化からニッポン無責任時代へと突入、植木等をあきつかみとして育ったわたしにとって「右と言われりゃ右むいて とても幸せ 影のようについてゆくわ 気にしないでね 好きな時に思い出してね あなた好みのあなた好みの 女になりたい」は国歌にも等しい。
 わたしにとって最も縁がないのは書物を中心とした教養主義的な世界観である。教養は人間の想像力や思考力を低下させる。さらに、教養などといわれると実相観入を想い起こす。わたしならひっくり返して皮相観入に戻したくなる。「実相に徹するをもって短歌写生道の要諦とする」といった自己本位性をわたしは浅薄と云いたい。皮相と実相という茂吉が示唆する二項対立には悲壮なまでの覚悟とナルシシズムが漂う。実体を現象認識のためのカテゴリーに過ぎないと看破したのはカントだが、事物の根底から実体が逃げ出して久しくなる。世の文学者はいつになったらそのことに気付くのであろうか。
 それでなくとも、対象概念と属性概念はしばしば入れ子構造をなす。というよりは言い回し、文脈、論理構造によってどこへでも好きなところへ飛んでゆく。「飛んでゆく」と「飛ばすのが可能である」では意味合いが随分と違ってくる。この違いは石川淳と漱石のそれにも似ている。わたしは当然、石川淳の側に立つ。

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