先だってお邪魔したあの夜、なぜ葡萄酒(Ripa delle Mandorle)の話になったのか今となっては判然としないのですが、私の知らない一ツ木通り時代のですぺらについて窺い知ることになった一方で、実を言えば思いがけない符合に驚いてもいました。なぜなら私もワインからモルトへいつしか転向した者であり、ちょうど一考さんが『葡萄酒お気に入り』を書かれた1995年頃は、寝ても覚めても伊太利亜の葡萄酒をはじめ映画や音楽に夢中になっていたからです。なかでもトスカーナはキアンティを筆頭に、サンジョヴェーゼ種のブルネッロ・ディ・モンタルチーノやヴィノ・ノービレ・モンテプルチアーノそれぞれに思い入れがあります。その頃ですぺらデビューを果たしていれば、良くも悪くも大変なことになったような気がしています。最近でこそプーリア州のプリミティーヴォやネグロアマーロ、アルゼンチンはメンドーサのマルベックなどいろいろ飲むようになりましたが、いまだに仏蘭西のワインについては(一考さんが感心しないと仰るウイスキーの熟成樽以外)全くと言ってよいほど知りません。
そんな私ですから、聞き覚えのない「ヴィッキオマッジョ」が魔法の呪文のように聞こえたこともお分かりいただけるでしょうか。多少割高でも、ご紹介いただいたファミリーワインで仕入れて是非飲んでみたいと考えております。白ワインに至っては門外漢なのですが、一考さんが旨いと仰るアルバリーニョ・コンデス・デ・アルバレイは飲んでみないと気が済みません。カーンモアのグレンキース´90に始まり、先晩のSMSラフロイグに至るまで、一考さんが「美味い」と称するものは悉くそのとおりであることを身をもって学んでいるからです。
それこそ本の話ではありませんが、次から次へと越えなければならない山が現れることの幸福があります。つい先週、神戸から帰る車中では「来月はブナハーブン8年(ピーテッド)とラフロイグのアンカンモアを買おう」などと胸算用していたのに、いまや図らずもワイン貧乏に陥りそうな勢いですが、それが今の私の「生き甲斐」なのですから仕方がないと笑っております。
ところでワイナリー和泉屋とは板橋1丁目にある店でしょうか?5年ほど前まで私も板橋は仲宿に住んでいたので、デイリーワインの仕入れで度々お世話になっていました。ちょうど種村季弘さんが通っておられた府立九高(現:都立北園高校)から中山道を隔てた向かいにあり、晩年の種村さんがその和泉屋(大正11年創業)の輸入したワインをですぺらで飲まれていたとすれば、これまた合縁奇縁と申しましょうか、何とも不思議な思いを禁じ得ません。