
ドナルド・レニック前所長(現在は女性)が来日した折りのインタビューです。検索しても出てこないので、転載させていただきます。掲載した方のお名前が分からないので、こちらで陳謝いたします。
文中に書かれているように、90年代半ば、原酒不足でラガヴーリンはとんでもなく値上がりしました。経営も思わしくなく、イアン・マクロードが大量の原酒を買い支えたというようなはなしも耳にしました。ドナルド・レニック所長が山の頂でラガヴーリンを飲んだように、わたしは北海道のキャンプ場で鮭とばを肴にアイラモルトを独酌していました。(一考)
モルトの巨人と称されるラガヴーリン。
アイラ島の厳しい自然のなかで、その類い稀なモルトの個性を守りつづける人物
11月初旬、来日したラガヴーリン蒸留所のドナルド・レニック所長に、インタビューをしました。
--はじめに、レニック所長のウイスキー業界での主なキャリアをお訊かせください。
1981年にホワイトホースのボトリング部門にエンジニアとして入社しました。曽祖父が家でウイスキーを作っていたというエピソードはありますが、それまで身内にウイスキー業界に携わったものはいませんでした。その後いくつかのウイスキーの工場でボトリングやモルティング工程のエンジニアを努め、1996年にアイラ島に渡りポートエレンでモルティングのエンジニアリングを担当し、98年にラガヴーリンに移って、当時のニコルソン所長の下で蒸留を学びました。所長になったのは1999年です。
--ウイスキー製造の現場で働くということに、どのような思いを抱かれていますか?
まず、私が住んでいる家は蒸留所のすぐそばなので、通勤ラッシュのストレスとはまったく無縁な生活を送ることができます(笑)。毎朝徒歩で通勤するのですが、蒸留所の敷地に足を踏み入れると気持ちがぐっと高揚します。ラガヴーリンで働くことは、私にとって大きな喜びだからです。それは何よりも、素晴らしいスタッフと一緒に仕事ができるからにほかなりません。いま従業員は私を含めて15名いますが、みなラガヴーリンの長い歴史をしっかりと受け継いでいます。なかには4代に渡ってラガヴーリンで働いているというスタッフもいるのです。
--ウイスキー愛好家の間でラガヴーリンの人気はますます高まっています。他のウイスキーにはないラガヴーリンの際立った個性が生み出される要因は、いったい何なのでしょうか?
ラガヴーリンの味と香りには「7つの秘密」が関係しています。ひとつは水。2番目にバーレイとピート。3番目はマッシュとウォートの生成方法です。4番目はオレゴンパインのウォッシュバックで55時間かけて行う発酵。5番目は細長いウォッシュスチル。このスチルは45度に折れ下がったライパイプの形も特徴的です。6番目はタマネギ型のスピリッツスチル。最後にスピリッツスチルにかける時間の長さです。しかし、それら長い歴史のなかで培われた技術を再現するのは人間です。伝統を受け継いだ優秀なスタッフなしでは、この味と香りは決して完成しません。
--所長という仕事で、特に気を配っていることはどのようなことですか?
ウイスキーをつくるということは、歴史が創造したそのキャラクターを、間違いなく再現することです。大切なのは設備や環境を可能なかぎり変化させないこと。そのためにあらゆる面で気を配ることが、私の重要な仕事のひとつです。いまや世界的に重要な蒸留所となったラガヴーリンを所長として預かることには、大変なプレッシャーを感じますが、同時に大きな誇りでもあり非常に名誉なことと思っています。
--ところで、地元スコットランドでのラガヴーリンの評価はどうなのでしょうか?
もちろん、国内でも大変人気のあるモルトです。若い人から年配者まで幅広く受け入れられています。個人的にはラガヴーリンは非常に男性的なウイスキーだと思うのですが、いまでは若い女性のファンもとても多くなっています。私も正直なところ驚いています。
ラガヴーリンに至る前に多くのウイスキーを試し、最終的にラガヴーリンに辿り着く人が多いと思います。しかしラガヴーリンを飲んだことがない人が蒸留所に見学に来られても、ほとんどの人から美味しいという評価をいただきます。
--ラガヴーリンに合う食べ物があれば教えていただきたいのですが。
食べ物と合わせるのならば、なるべく強い味のものがいいと思います。チーズならば例えばロックフォール。甘いものならばチョコレートのようなもの、それも味の濃いダークチョコレートがいいでしょうね。
--日本にもラガヴーリンファンは非常に多いのですが、実はラガヴーリンはその人気の高さからか、いまとても手に入りにくくなっています。それはなぜでしょうか。
確かにいま、ラガヴーリンは16年を中心に在庫不足が続いています。実はこの原因は、80年代のスコットランド経済の不況にあります。このときの不況は蒸留所の運営にも大きく影響し、多くの蒸留所が閉鎖に追い込まれました。幸いにしてラガヴーリン蒸留所は閉鎖にこそ至らなかったものの、生産制限をしなければいけなかったので操業は週に2、3日という状態でした。つまり16年前の生産量が絶対的に少ないのです。
そして現在、ラガヴーリンは世界的に非常に高く評価されるウイスキーとなりました。それはとても光栄なことなのですが、在庫の少なさに人気の高さが加わって、入手しにくいウイスキーとなってしまっています。決して、私が出荷前に全部飲んでしまっているわけではありません(笑)。
しかし、90年代には蒸留所の生産は再び安定したので、皆さまにラガヴーリン16年を心置きなく飲んでいただける日はすぐそこまで来ています。安心してください。
--最後に、レニック所長ご自身はラガヴーリンをどのようなウイスキーだと思いますか。またどんなシチュエーションでラガヴーリンを飲むのが好きなのか、教えてください。
ラガヴーリンは私が愛して止まない、とても特別なウイスキーです。強いピート香とスモーキーさを持ち、それでいて甘く、そしてとても複雑です。そしてそのフィニッシュの長さ。とても気持ちいい後味が、長く、長く続きます。
忙しく働いた一日が終わったとき、家に戻りホッと一息ついたところで飲むのもいいものですが、やはり私は、気の合った友人たちとテーブルを囲んで賑やかに話しながら飲むのがいちばん好きです。
それからもうひとつ。私の一番の趣味はヒルウォーキングです。スコットランドの3000フィート以上の山々をリストアップした「マンロー・リスト」の全284座のうち、これまで186座に登頂しており、制覇まであと98座です。その一つひとつの山頂で、登頂を祝って必ずラガヴーリンを飲むのです。眼下にスコットランドの大地を眺めながら飲むマイ・ホームウイスキー。ほかの何にも代えがたい、幸せな瞬間です。
マンロー・リスト Munro List
スコットランドの3000フィート(910m)以上の山のリスト。作成者マンロー男爵の名を冠したこのリストには284座の山頂が記載されている。リストの山々を登頂することは「Munro-bagging」と呼ばれ、英国の多くのヒルウォーカーたちの目標になっている。英国における「日本百名山(深田久弥著)」のような存在といえる。
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