前項で書いたサッシカイアからカズッチャに至る高級ワインは10代20代の頃は飲みました。三十路を出てからは無名の新進のワインしか飲んでいません。価値の定まったものに興味はないからです。天邪鬼といいますか、既存の価値観、体制には徹底的に叛旗を翻します。これはウイスキーでも同じです。
アルザス、ボジョレー、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、コルシカ、ジュラ&サヴォワ、ラングドック・ルシヨン、プロヴァンス、南西地区、ロワール渓谷、ローヌ渓谷がフランスの12大ワイン産地です。そして、もっとも有名なブルゴーニュのアペラシオンだけでも恰度100あります。プルミエ・クリュやグラン・クリュでなくとも優れたクリマでは畑名の名乗れるものもありますが、わたしはさらに無名の地区のワインを探訪します。ワイナリー(醸造所)の数はウイスキー(蒸留所)の比ではなく、エチケットによる格付け以外にも美味しくて、素晴らしいワインが数多く存在します。例えばボルドーのシャトー・ソシアンド・マレやシャトー・グロリアなどのように。他人による過去の格付けなんぞ、なんの意味がございましょう。況んや年間わが国に這入ってくるたかだか3000種類ほどのワインを飲んで、ワインを識っているとか、ワインが分かっているなど、笑止の沙汰です。
アルゼンチンであろうと、南アであろうと、レバノンであろうと、まったく無名の新人が精魂傾けて造ったワインには五大シャトーを凌ぐ気迫が感じられます。リパ・デッレ・マンドルレもサンティアゴ・ルイスも最初のヴィンテージが日本へ這入ってきたとき、わたしは感涙にむせびました。わたしは95年からこっちワインを飲んでいません。それほどの衝撃だったのです、あの二点は。
ですぺら掲示板/ですぺら紹介/酒はまだある/葡萄酒お気に入り・・・となるのですが、あの稿は1995年に著したものです。わたしのワイン遍歴のすべてを書きました。知っているものは知っている、知らないものは知らないと正確に記述しています。リパ・デッレ・マンドルレとサンティアゴ・ルイスには自信がありました。それにスカラ・デイを加えて各10ケースをですぺらのベースにしたのです。そして評価はなにひとつございませんでした。美味いとの一言すらなかったのです。わたしは東京に失望しました、ワインのために失望しなければならなかったのです。それが一ツ木通りですぺらの現実でした。
葡萄酒お気に入りで書いたアルバリーニョ・コンデス・デ・アルバレイ2015年は現在1650円で売られています。91年にフランス最大の国際ワインコンクール「チャレンジ・インターナショナル・デュ・ヴァン(Challenge International Du Vin)」において、スペインの白ワインとして初めて金賞を受賞しました。そのヴィンテージと比較して美味いかどうかをわたしは知りません。しかし、ですぺらに置いていた91年ものは間違いなく美味かったのです。こちらも評価はまったくなかったのです。無名のワインを評価するだけの鼻と舌を持ち合わせたひとが東京には皆無だったと思いたくないのです。気が向けばお飲みいただけないでしょうか。