シュルレアリスム宣言の真骨頂は、デューラーは××に於いてシュルレアリストである、エルンストは××に於いてシュルレアリストである、との歴史的時間を平面に置き換えてみせたところにある。この手法は林達夫が頻繁に取り入れた作法でもある。若いころは随分と影響を受けたものだが、欧州では古くからこのような考えがあったと知った。ガブリエル・ノーデ(Gabriel Naudé)は1600年2月2日生1653年7月10日没の学者である。ジュリアン・グラックのいう包括弁証法が往時から生きていたとは愕きだった。
読みづらいのは承知でこのような文章を認めた。引用に固有名詞が多いのは、書誌学者としてのノーデの一端を知っていただきたいからに他ならない。伊藤敬さんが「既訳の存在について、あえて触れないのは「武士の情け」である」と著されている。本書に限らず、某フランス文学者の書誌学に関する本の訳注のあまりのひどさに呆れかえったことがあった。この種の書冊にはとかく意訳乃至誤訳が多い。今回の伊藤敬さんの名訳によってノーデが真当に評価されることを願ってやまない。