ですぺらの店主はライダーですが、決してバイクおたく、旧車マニアではなく、走りを目的とし、自ら整備し、雨風に打たれるのを快感とするライダーです。従ってモルト・ウィスキーを取り扱うのも、それがたまらなく好きであり、幾たび宿酔の悪夢に魘されようが懲りもせずに飲み続ける、要するに単なる酔っ払いなのです。
昨今、通信ネットが発達し、日々各所でオークションが催され、さらなるレアものも容易に入手できるようになりました。特に伊太利亜では盛んなようです。国内を振り返っても、レアものや旧ボトルを取り扱う業者が増え、今では専門の業務店も存在します。しかし、人は時代の子。生体解剖に興味は有っても、死体解剖に店主は些かの興味も抱きません。シュルレアリストにしてシングルモルトの先達、神大の仏文学者、故小島輝正氏の三千本を越えるコレクションも震災であえなく瓦解。目前にごろんと転がる現実、要するに与えられた条件の中で、いかに気軽にモルト・ウィスキーを嗜みかつ愉しめるかに、ですぺらの本意があります。
酒の世界にあっては本質が実存に先立ちます。人に親しまれ飲まれてこその存在。たかが酒ではありませんか、蘊蓄やこだわり等豪快に嗤い飛ばして飲みましょう。
≪いたずらに生きのびし意志弱行の者たち
やるせない遠吠えの咽をうるおすために
誰あらん 美酒一献≫