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稲葉真弓さん    一考

 

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 稲葉真弓さんについて書いた古い文章が見付かったので再録したい。彼女の三冊目の詩集「母音の川」について書いている。講談社の編集者とまたは天童さんと一緒にですぺらへ何度もいらっしゃった。

・・・前略
 「母音の川」は稲葉真弓さんの三冊目の詩集。第一詩集の「ほろびの音」が1982年、その前年の二月に第一作品集の「ホテル・ザンビア」が上梓されています。贔屓筋の頭目に安原顕さんがいらっしゃいます。安原さんの尽力によってかつて海に掲載された短篇が来年二月に河出書房新社から纏められます。私が雪華社在籍中に中井英夫さんの「夕映少年」についで出版する予定だったのですがかなわず、そのままになっていた稿です。無責任な編集者で申し訳なく思います。
 プライヴェートな憶い出で恐縮ですが、80年前後、稲葉さんとはしばしば酒を酌み交わしました。当時の私は真冬でも素足につっかけでした。貴女は「寒くないの」と訊ねましたね。「猥褻にならなければどこを晒けだしてもよいのよ、それよりなにより水虫が痒くってねえ」と嘆いてみせたのは精一杯の虚勢。なにね、靴を買う金がなかっただけなのですよ。貴女は飲み屋でスカートを捲りあげ、ストッキングを脱いで靴を肩に掛け「これで私も裸足、今日は朝まで飲みましょうね」裸足で御苑通りから新宿二丁目、要町からゴールデン街を徘徊しました。あの夜、人の情と言いますか、気配りの深さに私は驚いたのです。貴女のような詩人をいい女と言うのですよ。

 「母音の川」のあとがきから数行、

――書いている間、ずいぶんたくさんの体が私の前を通っていった。十代の少女の体、耳や手足などの部位のほかに、ややくたびれかけた女たちの体、あるいは祖母や母たちの眠り、魚や昆虫の交尾までもが「あいうえお」を発語として姿を現し。思いがけず豊かな川を渡ってきたような気がする。
 もちろんこの詩集はポルノグラフィーとして読まれていいのだ。女たちの声はポルノグラフィーの川。たくさんの娘たちが、今日もその川を熟れた果物のように流れていく――

 ひとつのテーマを決めどんどん穫り込み、そして削りとり刮げおとしてゆく、その取捨選択の狂いのなさ、自在なイマジネーションに裏打ちされたしたたかな構成力に脱帽。吉岡実、辻征夫の死以来、諦めかけていた「詩集」に久しぶりに逢着しました。才能という名の元手がたっぷりかけられた贅沢極まりない一本です。(2002年12月16日 ですぺら掲示板1.0)


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2017年12月18日 23:42に投稿された記事のページです。

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