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「webふらんす」に掲げられた岩崎力さんの「敬虔な思い出たち マルグリット・ユルスナール」を転載する。4回の連載、ぜひお読みいただきたい。文中にあるごとく、ユルスナールは訪日した折、岩崎さんの運転にて日本を旅なさった。途次、多田智満子さんとも逢い、多田さんはそのときの思い出を綴っている。車はたしかトヨタのカローラだったと思うが、後部座席はシートが破れ、細かいことにこだわらない岩崎さんらしいオンボロ車で、これにユルスナールを乗せたと思うと微笑ましくなってくる。
岩崎さんとは何度か一緒に仕事をさせていただいた。雪華社で「ヴァルボアまで」を作ったときはひとり娘が縊死なさった後で、大塚でふたりでしんみりと酒を酌み交わした。「東大在学中だった娘さんが自死なさって、その悲しみを束ねた書冊、扉の次ページに刷られた三行のフランス語、あの三行のためにのみ、同書は編まれました。本が出来上った日、大塚の小料理屋で馳走になった活魚、ハンカチで拭いもせず、二人して「大塚のさかなは塩っぱいね」。あれから二十年経ちました(2005年10月)」と当掲示板で書いている。
岩崎さんは権威権力を忌み、個であることを潔しとされた。おそらく西永良成さんしか友はいなかったのであるまいか。