コンポでなにを聴くのかとの問い合わせ。ちあきなおみと奥村チヨとでも云っておこうか、黄昏のビギンと紅とんぼは夥しい歌手が歌っているが、ちあきなおみにとどめをさす。夜へ急ぐ人から「それぞれのテーブル」「待夢」へは一直線、倍賞千恵子のスラバヤ・ジョニーと共に忘れられない。余談ながら、スラバヤ・ジョニーに関しては本場の歌手よりも晩年のミルバのそれに畏れすら感じる。いまひとりアンネ・ソフィー・フォン・オッターも加えておこうか。
奥村チヨへの思いは山本六三へのそれと重なる。酔っ払っては奥村チヨの出鱈目きわまりない歌詞をふたりして口ずさんでいたのである。まるで辻潤のダダ的文章を読むのと同じような感慨を齎していたのである。いまひとつ、奥村チヨと云えば、エロ子さんを思い起こす。彼女と赤坂のカラオケ店へ行ったのだが、世代が違い奥村チヨをご存じなかった。
「恋の奴隷」
あなたと逢った その日から
恋の奴隷に なりました
あなたの膝に からみつく
子犬のように
だからいつも そばにおいてね
邪魔しないから
悪い時は どうぞぶってね
あなた好みの あなた好みの
女になりたい
「中途半端はやめて」
中途半端はやめて 苦しいだけだから
どっちかはっきりさせて 好きなの 嫌いなの
惚れた弱みに つけ込んで
あなたは何さ
小猫がマリにじゃれるよに
たわむれないで
責任とって 責任とって
あなたも男なら
中途半端はやめて 覚悟はしてるから
どっちかはっきりさせて 拾うの 捨てちゃうの
最初あなたが 惚れさせて
今頃何さ
いざとなったら手をあわせ
逃げるというの ?
責任とって 責任とって
あなたも男なら
中途半端はやめて 待ちくたびれたから
どっちかはっきりさせて 嘘なの 本気なの
帰れないのを 知りながら
帰れというの ?
子供を道に迷わせて
泣くなと言うの ?
責任とって 責任とって
あなたも男なら
なかにし礼の作詞だが、「責任とって」とわたしが歌いだすと彼女は相好を崩して笑い転げていた。奥村チヨよりも笑い呆ける彼女の顔がわたしにはこよなく懐かしく嬉しかったのである。