https://toyokeizai.net/articles/-/213808
「「ジャパニーズウイスキー」の悲しすぎる現実」との文章が週刊東洋経済へ掲げられた。井筒典久さんから教わったのだが、普段からわたしが扱き下ろしている日本のウイスキー業界の実態が明らかにされている。
山崎や竹鶴といった“ジャパニーズウイスキー”が国際的な品評会で賞を受けることが多くなったのは事実だが、受賞しているウイスキーは700ミリリットルで17.8万円以上のウイスキーのみ。わたしたちが普段飲むウイスキーはウイスキーにしてウイスキーにあらず。ウイスキーという商品名の飲み物と考えれば良いのである。例えば、山崎というウイスキーが8000円で売られているが、あれはブレンデッドウイスキーであって決してシングルモルトではない。本物の山崎のシングルカスクを飲もうと思えば、18万2千円から43万円の金数が必要になる。同じクラスのスコットランド産シングルカスクだと1万2千円から買える。要するに、わが国のウイスキーは世界一高いのである。
酒税法上、ブレンド用アルコールやウオツカなどのスピリッツの混和が9割まで認められている。そしてブレンド用アルコールはスコットランドでいうグレンウイスキーではない。かつて悪名を馳せた合成酒はアル添酒、三倍増醸酒とも呼ばれ、清酒なら合成清酒、焼酎なら焼酎甲類という名称で販売されている。原料名に関しては原料用アルコールと命名されており、日本酒なら醸造アルコール、洋酒ならブレンド用アルコールまたはスピリッツ、調味料ならアルコールまたは酒精と改竄表記されている。飲用酒は天然アルコールと合成アルコールが混合されていて、合成清酒と焼酎甲類は5対95、ジャパニーズウイスキーは20対80の割合になっている。
日本酒の本醸造はアルコールの添加が10パーセント以内と定められているが、ウイスキーの場合は90パーセントまで認められている。しかも残る10パーセントになにが使われているか定かでない。30年前のはなしだが、山崎蒸留所の年間総生産量の約3倍のウイスキーもしくはニュースピリッツ(スコットランドでは3年以内のものはウイスキーとは呼ばない)が樽の状態で輸入されていた。ここ10年は倍々ゲームのごとく増え続けている。
スコットランドからの輸入原酒だが、日本の蒸留所は例外なく利用している。例えば、自社蒸溜のニュースピリッツ2.3パーセントに外国産ニュースピリッツを7.8パーセント、残る90パーセントはブレンド用アルコールとスピリット。そこへ着色剤としてのカラメルと調味料と香味料が加えられる。わが国では熟成期間が例え1週間であってもウイスキーと呼称される。ウイスキーは蒸留酒である、従ってニュースピリットの段階では無色透明、8年目くらいから毫かに色付いてくる。日本で売られているウイスキーの多くは着色した甲種焼酎のようなものである。着色したと大書したのは、焼酎をシェリー樽などで熟成させて色が付くと焼酎との名称が使えなくなる。逆にウイスキーの場合はいくら着色してもウイスキーなのである。
酒税法上、ブレンド用アルコールもスピリットもグレンウイスキーのカテゴリーに分類される。要するに、グレンウイスキーと記載があれば、飲用アルコールと解釈しても差し支えない。このようなものがウイスキーと呼称されるのは世界中で日本だけである。繰り返すが、日本のウイスキーは美味い、ただしそれは18万円以上のウイスキーであって、それ以下の商品はことごとくが似而非ウイスキーなのである。