びんぐしの標準和名はセトダイ、しかし明石ではみなさん「たもり」と呼ぶ。前回紹介したマナガツオと友に、瀬戸内固有の磯魚である。なぜ、たもりと呼ばれるかと云えば、もともとは「とももり」だったそうな。とももりとは平家の頭領、平清盛の四男である平知盛のことである。源平合戦にて敗走し壇ノ浦に沈んだ知盛にちなんだ名、それが訛ってたもりとなった。
びんぐしに限らず、イサキ科の魚のうちヒゲダイ属、コショウダイ属、コロダイ属の背鰭が大きな魚はすべて「たもり」と呼ばれるらしい。大きな背鰭を、鎧を着た武士に例えたのだといわれる。ちなみに、びんぐしは鬢櫛、整髪料を付けた髪をかきあげるのに使われる目の粗い櫛のことで、この方が例えとしては分かりやすい。
イサキ科と書いたが、刺身にするとイサキと識別できない。違うのは値の安さと味のよさである、20センチのものが小売りで300円ほどで売られている。煮付けにするとメバルはおろか、カサゴよりも遙かに美味。もっとも、わたしは刺身で頂戴するのがもっとも好みだが。ゼラチン質が多く鮮度が落ちやすいのが欠点だろうか。
明石で名のある鮨屋は菊水と丹甫、その丹甫のご主人と親しいので訊いてみると、安価な魚ゆえ、漁師から馬鹿にされるので置かないとのこと。呆れかえってものが云えないとはこのことで、旨い魚は誰がなんと云おうが、薦めるべきである。オコゼの次に旨い魚だとわたしは保証する。