
かつて人丸花壇を取材した。人丸花壇が「蛸づくし懐石」「ふりふり会席」で知られるなら、霧島は明石を代表するスッポンとハモの専門店だった。共にコースで1万円ほどのそれなりの高級割烹である。その霧島の店舗を継ぐことになった。再来週から改装に這入るが、それまでに新店舗の図面を引かなければならない。開店は早くても、1月の半ばになる。
霧島の閉店は2015年3月だが、既に蜘蛛の巣だらけである。1500×700×600のオーバーフロー式生け簀が設置されてい、4寸厚のまな板や有田焼の食器がかなり残されている。使える備品は極力用いるつもりだが、カウンターの上に屋根が拵えてあるなど、あまりに割烹然とした造作は好みでない。
頭を抱えているのは生け簀である。水温は入れる魚によって大きく異なる。カニなら2度から5度、ナマコで13度、瀬戸内の魚で15度から17度。それよりなにより、バクテリアが繁殖し、水質が安定するまでに1年近くかかる。
その1年間はベラやカサゴなど、亜硝酸に比較的強い魚をパイロットフィッシュとして数匹泳がせて様子を見るのである。
バクテリアの繁殖に欠かせないのがライブロックだが、このライブロックに屡々付着するセイタカイソギンチャクは水槽内のペストである。
昔、親父が水槽と格闘していた。旅行はおろか、1日に何度も水温水質を確認しなければならない。わたしは魚を下ろすのが為事で、それだけに専念して居れば良いのだが、親父は底砂の清掃からガラス面に付着するコケの除去に至るまで、寝る時間以外のすべてを生け簀のために費やしていた。
久しぶりに割烹の厨房に立ち、15歳から25歳までの間の魚一筋のてんてこ舞いの日々を思い起こした。
追記
霧島の住所は明石市鍛治屋町1−3濱西ビル。ちなみに、生け簀の値段は一式で180万円ほど。