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月夜の夢兎    一考

 

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 月夜の夢兎とはわたしが懇意にする飲み屋である。ホームページとは別にオーナーの山下兼司さんは facebook にも這入られている。彼は西明石ですぺらのお客さんで、往時、多大な迷惑をお掛けした。
 飲み屋を営んでいると、893とのトラブルが付きものである。憑きものと言い換えても差し支えない。中国山間部では憑きものを「外道」とも云う。そもそも、東京へ引っ越した理由は893とのトラブルが嫌だったからである。
 かつて、山口組が福原へ進出してきたころ、親父はその闘いに明け暮れていた。詳しくは書かない、否、書きたくないのだが、893相手に諭すような談判がどこまでも続いた。業を煮やした相手が暴力を振るうと親父の反撃がはじまる。反撃がはじまると親父は二度と口は利かない。そこからあとは、戦地を転戦した男だけに、壮絶なものがあった。わたしが親父から学んだことは「ボケ、ダボ、クソ」と云った相手を喧り、賤しめるような虚勢は決して吐かない、黙って殴りあう、である。
 飲み屋を営んでいて、もっとも大切なことは893の出入りがあったときに、身を挺して客を守らなければならない。それができなければ店の維持は覚束ない。
 西明石ではその出入りが烈しかった。開店間際、みかじめ料を求めて5.6人の893の出入りがはじまった。玉津町上池にあった山口組二次団体の嫌がらせだった。

 ある忙しい日、バイク好き、料理人、空手家などが集まって杯を傾けていたところへ、4人の893が現れ悶着を起こした。静かにしてくださいよ、当方からの言葉はそれっきりである。山下さんが立ち上がり、4人が押さえ込もうとする。危ないと思ったとき、山下さんの正拳突きが893の顔面を捉えていた。
 893世界は徹底した縦社会である。芸人と同じで、もっとも保守的かつ反動的な勢力である。従って、叩くのはボス一人。山下さんの突きが当たった瞬間、殺すぞの一言。893は血だらけになり、怯んでしまった。と云うより、なにが起きたのか理解できない、との気配。
 山下さんはその足で警察へ出頭、店は警官で一杯になった。要するに、わたしは山下さんに救われたのである。主客が反対になってしまった。
 爾来、そのはなしはしたことがなかった。「霧島という店」を書き、山下さんと遣り取りをするうち、どうしても会いたくなりオートバイを走らせた。わたしのあまりの太り方に呆れかえられたようだが、あまねく晤語を楽しませていただいた。
 山下さんはギター、ベース、ブルースハープをよくし、ジャズ、ブルース、ボサノバ等のライブも不定期で開催なさっている。ぜひ、ご来店を。

 https://www.youtube.com/watch?v=Kkrgy1B6t4I


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2016年11月17日 11:08に投稿された記事のページです。

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