2016年詩のフェスタひょうごへmoonさんと出掛ける。高橋睦郎さんの講演を聴きに、である。タイトルは「女性詩の力に導かれて」。片瀬博子にはじまって、多田智満子、葛原妙子、中村苑子、伊藤比呂美と続く。いずれもが当代きっての天才である。
懇談会があったようだが、前半の睦郎さんの講演だけで席をたつ。掌の痛風がひどく、我慢できなかったからである。ユリノームを常に持っているが、即効性のある薬ではない。もちろん、睦郎さんに挨拶だけは済ませる。
久しぶりに片瀬博子の話しを聴いたので、詩を一編。
抱擁(片瀬博子)
かたくしまっている肉を おしひらいて
夜明けは あふれ入ってきた
あの人は非常に優しく
この上なく残酷にわたしをいそがせた
それでいつも あの人は
精霊のように軽くなって
抱擁の途中で見えなくなるのだった
わたしは石の酒槽(さかぶね)の中で
踏みくだかれる葡萄の山
背を光らせてうねりながら
橋の脚をぬらす真夜の波
セロの流れの中ですれあう無数の金剛石……
ついにわななく光の弧であった
詩が派生する場所、言い換えれば、詩の苗床には宗教、恋愛、労働の三種があると睦郎さんは指摘する。いかなる種類の恋愛であれ、情念が激しく揺さぶられたときに書かれた詩は美しく残酷である。
以下は多田智満子さんの朗読。撮影は金丸正城さん、と云うことは相澤啓三さんが多田宅を訊ねられたと覚しい。
https://www.youtube.com/watch?v=Mvs3YW0ZXEs