「極めれば、産地より旬」とのコマーシャルがあるが、必ずしもそう云いきれない食品が多い。例えば、秋刀魚の産地は北海道、宮城、千葉、三重、和歌山と云った太平洋側から富山、長崎と云った日本海側に至る。そしてそれぞれに旬があって、食べ方もさまざまである。
通常、秋刀魚と云えば、釧路港と根室港、それに女川港が有名である。現に北海道の漁獲量は52パーセント、宮城県のそれは14パーセント、併せて66パーセントの漁獲量を誇る。それらの旬は毎年8月から10月である。
そして11月になると、秋刀魚は三陸沖から南下し、遠く伊豆半島で水揚げされる。サイズも小さくなり、脂が減ってくるため干物などの加工品に適す。
秋刀魚はいよよ小さくなり、12月から1月には三重、和歌山まで漁場は下ってくる。富山湾や若狭湾で取れる秋刀魚同様、脂がほとんど抜ける。
和歌山と云えば、秋刀魚寿司がよく知られるが、なれ鮨も有名である。中には30年以上発酵させたものもあって、飯も魚も原型を留めず、粥状になっているそうな。
1月上旬、熊野灘で水揚げされた秋刀魚の中から、一番小さいサイズを寒風で3日間干して仕上げる。それが針子さんま丸干しである。
紀州熊野灘の海流の流れは急なので、南下する際に脂が抜けてやせ細ってしまう。脂がないからこそできる独特な風味がさんま丸干しの特徴。
新鮮な風味よりも味のコクというか、さんまのアクが強く感じられる丸干しで、両面を軽く炙って頂戴する。めざしもそうだが、さんまの丸干しも小さいものほど珍重され、掌サイズを針子と称す。すこぶる美味、酒の肴に、茶漬けに適す。