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饅(ぬた)について   一考   

 

 大体が、触穢(しょくえ)などという概念を屁とも思わないわたしなれば、「店家物は穢れ無し、店家物で為済、店家火とて銭一文出し穢家の物を食ふ忌服穢なし(譬喩尽)」をどう思うかと問われても、意見の持ちようがない。ただ旨いからとしか云いようがない。
 福原で育ったせいか、こどもの頃から店屋物が好きだった。店屋物には料理屋、蕎麦屋、鮨屋などの飲食店で売っている食物。またはその店から取り寄せる食物、の二通りの意味がある。わたしは出掛けるのが好きで、取り寄せたことはほとんどない。そもそも、店で食べる方が旨いに決まっている。
 ところで、上記の蕎麦屋と鮨屋だが、阪神だと少し様子が異なる。高級鮨屋は別にして、蕎麦屋ならぬ饂飩屋が大方で、温飩のあるところ蕎麦があって、蕎麦のあるところ天婦羅があって、さらに簡単な鮨がある。それが通常いう町の饂飩屋である。他にも酒肴がいろいろあって、特に饅(ぬた)あえはお気に入りだった。その饅について一言。これは余談だが、羹(なます)は温飩をいう女房詞。

 饅は和え物の一種。鮪、烏賊、蛸、蛤、浅蜊、青柳などの魚貝類に葱、分葱、韮、若布(わかめ)などを配し、酢味噌などで和えたもの。江戸時代には、ぬたなます、ぬたあえと呼び、「料理網目調味抄(1730)」には「饅膾(ぬたなます)は酒の糟、酢、芥子を以てあゆるを云也」とある。また、より古く室町末期ごろの成立とされる「大草家料理書」には「のたあへ鱠」との料理があり、酒粕に大豆粉などを合わせ、酢を加えて擂り伸ばしたもので魚を和えるとしている。「のた」「ぬた」は共に酒粕に酢を加えることを基本としている。
 ここで問題になるのは、室町期から江戸期にかけて酒粕と酢を用いていたものが、現代では酢味噌に化けていることである。正確には辛子酢味噌だが。酒粕は独得の風味と甘味があって奈良漬け、わさび漬け、魚や野菜の粕漬け、もしくは粕汁に用いられる。分葱と烏賊の饅がわたしは好きだが、酒粕を少量いれてみたところ、まったく旨いと思わなかった。酒粕の渾った味わいが味噌の舌触りまで渾ったものにする。やや甜い味噌と鼻へ抜けるような辛子と食酢の酸っぱさの三拍子にはかなわない。「若芽出でて古根枯るる」と云うが、饅は新陳代謝によって香味がシンプルになり見違えるように旨くなった。


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2013年04月10日 10:41に投稿された記事のページです。

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