「冷たい肉蕎麦」は、山形県河北町の郷土料理。鶏肉(歯応えのある親鶏すなわち陳鶏のこと)と葱を上置きする。つゆは鶏だしで冷製、延びないように冷やして出したのが始まりと云う。また、延びにくいということで酒の肴としてあてがわれる。 冷やしすぎると鶏の脂が固まるため、冷たいというよりはやや常温に近い。 地元では温かい肉蕎麦も供されるが、冬でも冷たい肉蕎麦を注文する客が多い。余談ながら、陳鶏(ひねどり)の燻製はすこぶる美味。西明石のですぺらで最も売れた肴のひとつ。
尾花沢発祥の郷土料理に「だし」と云うのがある、出汁ではなく和え物である。茄子、胡瓜、紫蘇、茗荷、葱、生姜、オクラ、昆布など、夏野菜と香味野菜を細かくきざみ、醤油、酒などで和え、一晩ほど寝かせる。大皿に盛り、各自が適量を温かいご飯に載せて食べるのが一般的。冷奴の薬味として食べられることも多い。蕎麦つゆと同割で、麺に絡ませる食べ方もある。「だし」に似た和え物を蕎麦に絡ませるのは東北に多い食べ方。
この尾花沢の「だし」を近所のスーパーで買ってきた。1914年創業の庄内町のマルハチが「山形のだし」を商標登録しているが、そちらは調味料が濃厚。わたしが購入したものは他に四、五種類売られている「だし」のひとつで、マルハチのそれと比して甘味がなく、淡い酸味が心地よい。
長野県北部から新潟県西部にかけて、「やたら」という呼び名で同様の郷土料理がある。ぼたんこしょう、茗荷、丸茄子、大根味噌漬けが基本材料。子供の頃によく食べたが、こちらは食べる直前に混ぜ合わせる。上越ではこの「やたら」を上記「だし」同様、蕎麦に絡ませて食べる。
同地域でもう一品、「こしょうみそ」と称する郷土料理。材料はぼたんこしょう、砂糖、味噌、青紫蘇。ぼたんこしょう別名ぼたごしょう(上越ではそう呼称していた)は激辛ピーマン、斑尾山麓の長野県中野市永江地区で栽培される。ぼたんこしょうは微塵切り、青紫蘇は細切りにする。鍋に味噌と砂糖を入れて弱火で混ぜる。砂糖が溶けたら、ぼたんこしょうを入れて10分位練り、青紫蘇を加えて良くなじんだら出来上がり。今なら、「やたら」より「こしょうみそ」を好むだろうが、幼少時は「やたら」ですら、やたら辛いと思った。