昔、袂に用意する残菜袋もしくは残肴袋というものがあった。懐石料理のとき、箸をつけられなかったものや、食べ残したもの、また魚の骨や、向付に添えられた防風(セリ科の多年草。若い葉柄は紫紅色で香気があり刺身のつまに使う。お浸しや和え物にも。浜防風とも)、穂紫蘇の芯などの残肴、残菜を入れる袋である。建前上、懐石で皿上に盛られたものはすべて食べられることになっている。従って、亭主に気づかれぬよう手早く処理する心遣いが肝要。
(註 懐石で向付といえば膾のこと。懐石と本膳料理では全く異なる。現在の懐石では初めに亭主が持ち出す折敷に飯、汁とともに向付が配され刺身を盛る。これで個々の腹加減を同じように調整してから山海の珍味に具える。要するに懐石では最初に飯が供される)
残渣から残菜を連想、次に懐石を連感したまで。懐石料理は珍味であるがいずれもが粗食揃い、植物繊維の塊のようなものが多い。懐石に屡々登場する野菜に椎茸があるが、これは茸類のなかではもっとも消化が良さそうである。
他に高残渣の野菜を代表するものに、牛蒡、蓮根、筍、和蘭雉隠し、白菜、小松菜、胡瓜、セロリ、玉蜀黍、隠元、絹莢、貝割れ大根、もやし、葱、韮、春菊、茸、海藻などがある。では低残渣の野菜にどういうものがあるかと云えば、馬鈴薯、里芋、大和芋、甘藷、菠薐草、人参、南瓜(皮を除く)、茄子(皮を除く)、オクラ、大根、蕪、冬瓜、玉葱、蕃茄(皮を除く)、甘藍、ブロッコリー、カリフラワーなどである。一読、疑問に思うのはもやしである。わたしの頭のなかで植物繊維ともやしは結びつかない。後で出てくる「木の葉丼」を書いていて気づいたが、固い、柔らかい等、見て呉れは残渣と直接関係なさそうである。
低残渣食を摂るひとは醗酵食品を控える、という項目がある。すべての酒類、酢、味醂、醤油、味噌、納豆、鰹節、塩辛、くさや、なれ寿司、魚醤、アンチョビ、漬け物、キムチ、ザワークラウト、ピクルス、ナタ・デ・ココ、ヨーグルト、チーズ、麺麭、紅茶、烏龍茶等々である。「控える」だからまだしも、醗酵食品が禁止されるということは調味料の禁止に等しい。それでは食生活が成り立たなくなる。
それにしても、低残渣の米は不味い。国産米というが、ミャンマー、ラオス、カンボジア、どこの国産米なのか。あれでは残渣でなく残滓米である。
野菜ではないが、鶏の唐揚げなんぞ、油濃くて食べられなかったが、米粉を使えば油臭が抜ける。腎不全になったときから食べられなくなった縮緬、畳鰯、目刺しなど、小魚はどうしようかと思っていたが、粉末にして振り掛けにすれば問題解決。高残渣で知られる大豆にしても「納豆も豆なら豆腐も豆」という。女性の化粧のごとく、要はちょっとしたことで食材はどうにでも化ける。それが割烹の醍醐味である。
追記
水溶性食物繊維は十分に摂取することとある。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維については改めて。