それにしても長い入院である。書いても仕様のないことながら、うんざりである。寝間着から下着にいたるまでなにひとつ用意していない。爪を切り髭は剃ったが、なによりまず散髪をしたい。わたしは頭髪は十代の頃から自分で刈ってきた。風呂場と鋏があれば可能なのだが、病院の風呂は禁止されている。就寝に関係なく、二十四時間ひっきりなしの点滴である。まず、その段階で風呂は諦めるしかない。
下着は拙宅から持ってきさえすれば病院で洗濯はできる。しかし現物がなければどうにもならない。例え病院であってもわたしはまだ生きている、生きていればこそ生活がある。食事は禁食中だが、食事以外にも生活は山のようにある。せめて、駅中のスーパーへ買い物に行かれればよいのだが、外出許可は下りない。
病窓を哀れ詮ない粉雪舞う
追記
24日の大量下血の結果、パジャマすら失ってしまった。午後、迷惑を顧みず櫻井さんに電話、ベッドから動かれないわたしに替わって病院の売店からパジャマを買ってきていただく。彼と久しぶりに晤語を娯しむ、ついさっきまで六人掛かりで押さえつけられて悶絶していたのに。生還後、初の訪人(まれびと)、ありがたきかな。
生と死のあわいの儚さを知る。一方で包括も包摂もできない、離叛し乖離した関係。一方で死と生を隔てるものはなにもない。ひょんな偶然が生をもたらし、ひょんな偶然が死に至らしめる。それが病院での日々の出来事。