移植を受けるに際し、最初に心配したのは費用のことだった。通常、ドナーとレシピエント併せて300万円から400万円だが、国民健康保険の高額医療が適用される。
相談したのが戸田中央の名誉院長東間さんである。彼によると更生医療だろうから金の問題は生じないと。国民健康保険も更生医療も結果は同じで、基本は無料である。従って、移植手術における当方の負担は30万円から40万円で収まるはずだった、免疫細胞療法がはじまるまでは。
身体の外から入ってくる異物を排除するのが免疫だが、誤って自分の身体のある部分を敵だと思って攻撃してしまう病気を自己免疫疾患という。皮膚、血管、関節などに炎症を起こし、炎症が全身に及ぶのが膠原病である。現在のわたしの身体のなかではこの自己免疫疾患が起きている。理由は免疫抑制剤が十全に機能していないからである。
最近は免疫抑制剤が発達して少々合わなくても移植に踏み切る。この場合、血液型は端から問題にならず、抗体が合うかどうかが問題になる。
さて、免疫細胞療法に代表される高度医療の大半は国民健康保険が適用されない自由診療になる。ここで問題になるのはわが国では保険診療と自由診療の混合診療は認められていないということ。ごく一部であろうと自由診療を併用すると、保険が利くはずの検査や治療も全額自費負担となり、標準治療の部分は、免疫細胞療法以上の莫大な出費を強いられてしまう。
例えば腎臓癌の場合、腎臓の摘出費用は35万円だが、転移による免疫細胞療法を受けると最低70万円の費用が必要となる。そしてその間に風邪でも引けばそれだけで10万円か20万円が加算される。
これは国民皆保険を守るため、というと聞こえは良いが、貧乏人は保険診療以外の診療を受けずに死ねということである。一般病院で未認可の新薬やANK自己リンパ球免疫療法(ANK免疫細胞療法)などを行えない理由であって、結果、多くの癌患者は金銭的に行き詰まり、追加の治療を受けられずに死んでゆく。金の切れ目が命の切れ目と揶揄した理由はそこらにある。
わたしは国民健康保険に反対はしない。優れたシステムだと思う。しかし、一方で規制緩和が急がれるのも事実である。少なくとも薬価は自由化されるべきである。