「かく」(動カ五[四])「掻く」と同源。体内にある汚いもの、好ましくないものを外に出す。「走ったものだから汗を—・いた」「大きないびきを—・く」「人前で恥を—・く」
戦後、青線にて「かきや」もしくは「掻き屋」という商いが流行った。「マッチ一本擦る束の間の快楽」からマッチ売りの少女とも呼称された。この赤線、青線というのはそこに立つ女が公娼か私娼かで決められたが、劃然と区分けされていたわけではない。戦後は双方が入り乱れ、赤線のあるところには青線があり、他の色線もあった。
戦後のことゆえ、この掻き屋の掻く対象を蚤や蝨と勘違いなさる人がいるやもしれず、対象は十数センチあったことを記しておかねばならない。蒼い夜空めがけて迸る白い稲妻、抛物線あるいは双曲線を描く真珠の切り口、円錐曲線の屈折・透過する白い光、そうしたものを日々一所懸命に掻き出す為事であった。
前述のマッチ売りの少女には異なる意味も付与されていた。マッチ一本燃えている間に陰部を照覧、その勢いをかって白いものを飛ばすという著しく能動的な商いである。かきやのマッチ売りは手を添えて相手が飛ばす手伝いをするという、客にとっては受け身のそれであった。
つれづれなことを消(ショウ)すにマスを掻くは一番の代謝、往事はマスを掻く御仁多くありてかきやの商いも繁盛せりという。