泌尿器科でもっとも多い手術といえば前立腺癌だろうが、腎移植は代わりの医師が少ない世界である。専門医として頑張っていただくには雑用(一般外来を雑用とする)から解放されなければならない。そのためにはわれわれ患者も発言しなければならない。戸田中央は埼玉で唯一移植を手掛けている病院、そこで唯一の執刀医が瀬戸口さんである。わたしは自らの腹を開腹していただいたので良く分かっているが、彼は名医である。
上京して以来、主治医の山崎医師をはじめ、多くの卓れた医師と出遇ってきた。思うに、この間の季節の変化を反覆しつつ月日は容赦なく推移した。体外衝撃波を受けに山崎医師のもとをオートバイで訪れ、発作が起きればどうする、なにを考えているのかと叱られたこともあった。多くの医師に見守られ、多くの医師に励まされ、ここまで生きてきた。二度ほど危機に瀕したこともあった。その度に、わたしの心の目は北海道にあった。オートバイで走り回り、廻り巡った北海道の山河、いつ死んでも良いと思ったとき、それはちまちました故郷でなく、キャンプで訪れた北海道の大地と雨と風、そして焼き付き饐えたガソリンの臭い、そこに人の姿は絶えてなかった。