松戸から上野までの移動が大事なのは分かっていた。まず、松戸までのバスだが、男子学生が脚を拡げるだけ拡げて座っている。足下にサッカーボールと思しきものが置かれている。若い子ほどかかる虚勢を張りたがる。朝夕の上葛飾橋は渋滞で動かない。駅までの4キロに30分は掛かる。ここでまず疲れ果ててしまった。足腰の痛みが全身に拡がってゆくのが分かる。
松戸から上野行きの電車に乗るも、時間が時間だけに通勤客で満員である。北千住、南千住と駅へつくたびに下車、待合室で身体を休める。日暮里でやっと車内が空く。拙宅と上野間の移動に3時間を要す。9時6分発の新幹線に滑り込みセーフである。ちなみに、松戸上野間の通常の所要時間は15分。
無理を承知で出掛けたのはいずれ身体を馴らさないといけないからである。
新幹線は新幹線で学生達と隣り合わせになった。彼等はのべつ幕なしに喋る、男性は女性に、女性は男性相手に自己表現に務める。その媚を売る様は一心不乱で、迷いというものをまったく持たない。まるでジャパネットたかたの社長のようだが、あちらは喋るのが商売、ちやほや褒めそやすのが学生の商いとは思わないが。
ミニ新幹線に乗ったのははじめて、福島までは新幹線だが以降は料金も普通の特急料金であって、速度はうんと落ちる。福島を出ると県境の急勾配を走る、米沢、高畠、赤湯、かみのやま温泉、山形とつづき、電車は新庄まで走る。わたしは山形で左沢線へ乗り換える。左沢(アテラザワ)との呼称は最上川の「左方(アチラ)」または「あちらの沢」に由来する。一時間に一本あるかないかの電車に乗って羽前長崎が今回のわたしの行き先である。羽前長崎のふたつ先に桜桃で識られた寒河江がある。