研ナオコは天城湯ヶ島町の生まれ、プチャーチン提督もしくはマホフ神父の末裔でないかと種村さんとはなしたことがあった。種村さんはこの手の話題が好きで、抛っておくとはなしは突拍子もない方へ膨らんでゆく。その研ナオコもまた突拍子もない歌手で、どこかしら捨て鉢な歌唱法とハスキーな発声法が相俟って、わたしはファンのひとりである。「あばよ」「夏をあきらめて」「かもめはかもめ」の三曲は特にお気に入りである。
シャンソンやファドの歌い手のような良い意味でのと云うことは個性を持った流行歌手だと思う。ただ、作詞家や作曲家に恵まれない、従ってカバー曲を増やせばよいのにと思う。山口百恵や中森明菜のカバーなどいかがかしら。このところ、由紀さおりのスキャットが流行っているそうだが、ならば研ナオコもお薦めである。由紀さおりより不健康なところが良い。水色のワルツや湖畔の宿なども編曲によってはちょっと爛れた曲になる。
それにしても、露西亞海軍元帥・伯爵の血を引くだけあって、多少のことには動じない。「だから何なのよ」「勝手にすれば」との台詞が似合う助番タイプで、シャイに唇を歪めてみせる。背徳と無邪気が背中合せになった素直な悪女とでも云うべきか。歌同様、チューリッヒのダダイズムを想起させる間の抜けた顔つきには深い味わいがあリ、岩田専太郎から「百年に一人出るか出ないかの不世出の美人」と絶賛される。