猫が轢かれて死んだ。マンションの前には外環から隣町の八潮へ抜ける道がある。高速ではなく外環の下を走る国道である。国道とはいえ、八十キロから百キロの速度で大型車両が這入ってくる。マンションからどこかへ出掛けるにはその道を通らなければならない。見通しが悪いので日々冷やひやしながら走っている。
死んだ猫は二代目の黒猫である。当初居た黒猫はお産の後いなくなった。生れた猫は白猫が二匹と黒猫が一匹、それと斑が一匹である。他にも二匹の猫がいるが、わたしが些かにせよ、気に掛けていたのは黒猫だけである。気にするとは云え、餌を与えたことは一度もない。声を掛けるだけである。
米国では二千八百キロを旅した猫がいるという。日本の猫のテリトリーは狭い、せいぜいが百メートルほどである。その範疇ゆえ闖入者は車の方である。ぺちゃんこになって、道には血がこびり付いている。どう考えてもトラックの為業である。
かつて水戸街道の中川大橋で片側三車線の国道を猫が渡っていた。後方を確認のうえ、わたしは急制動をかけた。しかし深夜の国道である、他の車が止まってくれるとは限らない。周章ててハザードを点けたところ、後続車両も猫を見付けて止まってくださった。竦んでいた猫は脇目も振らず駆け抜けて行った。人よりすぐれた視力を持ちながら傍目がないから猫は轢かれる。もっとも、近頃はそのような人ばかりになってきたように思う。その場合は止められる方が傍迷惑だが。