風のなかの挨拶 佐々木幹郎
ねむる月
なお ねむる月
おさない葉の
枝の風を抜けて
夢乱れて
泣くなら 泣け
千のピアノ 千のヴァイオリン
生まれたての
やわらかな黄緑の葉をさわり
愛が人間のなかに入り込むときの
なんという奇妙な瞬間
猫 尾を立てて歩き
挨拶する あなたに
こぼれ散る風の向こうの あなた
生きる水 あふれる
音ひくく
うた遠く
知らないうちに
笛と太鼓が鳴り
笑い声が
扉を開けて 次々と扉を開けて
鉦は鳴る 欲しいものすべて
四月の大きさ 五月の深さ
六月の強さ
芽吹くときの やさしさ すべて
*4月30日夜、30年ぶりに集ったメンバー7人と「うたげの会」という名称の会を結成しました。東日本を見守る。日本の文化構造を変える。未来の子どもたちのために、必ず変える。生涯最後の、本気の闘いを始めようと思います。
以上は佐々木幹郎さんのブログからの転載である。昨今の詩人にとって天災か厄災のような詩である。深い覚悟のほどを味わっていただきたい。
わたしは屡々幹郎さんに助けを乞う。乞うとは云っても「助与」と叫ぶわけではない。「笑いながら突っつきあい、じゃれあってい」るのである。その叫びと戯れとのあいだに友と称する橋が架けられている。糠平湖のタウシュベツ橋梁のような橋で、季節の水位変動によって忽然と姿を消すかと思えば、冬季は氷面を突き破って現れる。
「幻の橋」と云われる由縁である。移ろいゆく幻なのかもしれぬ、夢なのかもしれない。しかし、詩人にとって夢幻はあってはならない。今ここに在るとの消しがたい思いに明瞭な形を与え、名辞しなければならない。詩人の闘いは続けられる。
追記
幹郎さんの講演が明治大学和泉校舎で催される。6月7日(火)16時20分から90分間、「詩人と旅」という題で豁達にお話し頂く。コーディネーターは高遠弘美さん。