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仮設住宅   一考   

 

 某市の首長が低地にあった住宅を高台に移す計画を伝え、国に対して支援を求めたという。これは一例だが、家屋が役所乃至政府によって元通りに復旧されると思っているかの発言に愕いた。国が私有財産の再建に手を貸すのはどう考えてもおかしい。それでなくとも、阪神淡路大震災の後、被災者生活再建支援法が議員立法により制定された。今では収入、年齢によって異なるが、最大三百万円が支給されるようになった。
 かつて書いたことがあるが、本州最東端のトドヶ埼灯台から南西約二キロ、姉吉漁港から延びる急坂の上に位置する姉吉地区ではすべての家屋が被害を免れた。その坂の途次に立つ石碑には以下のごとく刻まれている。

   高き住居は児孫の和楽 想へ惨禍の大津浪

 その想いを喪ったが故の大きな災厄だった。
 三陸は猫の額のような狭い土地に家が建て込んでいる、山陰も消息は同じである。住むのが可能なところには当然家屋があった。それに近接するかたちで広大な空き地(山間地)があればともかく、浸水地域への復旧は許されない。だとすれば、村外、町外あるいは県外に仮設住宅を建てるしかない。要するに被災者は住処を捨てるしかない。それでなくとも地盤の沈下によって山手線の内側の七倍の土地が水没した。
 再建費用は所有者負担が原則、少なくとも神戸ではそうだった。そして仮設は仮設であって、二年後には撤収される。避難所には学校をはじめとして本来のの用途があり、仮設住宅同様、苟且の居場所である。好むと好まざるとにかかわらず、生活基盤は他に求めるしかない。漁業、農業、畜産の何如を問わず。
 仮設住宅の入居は妊婦や乳幼児、高齢者のいる世帯などが優先される。地域別でなく、無作為な抽選になる。それがコミュニティの寸断を呼び、高齢者や障害者は結果として見棄てられる。神戸に於ける福祉避難所や多発した仮設住宅に於ける孤独死の問題は、今回もそのまま引き継がれる。神戸の仮設住宅は老人の絶滅を待って五年の長きにわたって存在した。死後数週間あるいは数箇月を経て発見される独居死が倍増したとの記事が、十年後の神戸新聞に書かれている。


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2011年03月30日 20:57に投稿された記事のページです。

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