ワイン樽熟成のモルト・ウィスキーでよく知られているものにボウモアのダスクがある。ボウモア特有のコスメティックな香りは幾分和らぎ、その代わり、京都の麩饅頭のような苦みが後口に残る。好感の持てる苦みなのだが、それが渋みでないのが不思議、樽のなせる魔術の一種と思う。
ワイン樽を熟成に用いたのは、蒸留所ではグレン・モーレンジとグレン・モール、ボトラーではイアン・マクロードが早いのであるまいか。ワイン樽でワインの熟成が行われるのは二箇月から二年、ウィスキーのような後熟は行われない、しかも一度きりで再使用はない。再使用されないという点はバーボン樽と同じである。
バーボン樽は小さいのでスコッチの熟成には適さない。そこで側板を増やして用いている。所謂ホグスヘッドである。ところがワイン樽は端から大きい。スコッチをゆっくり熟成させるには相応しい大きさなのである。
昨日のニュースで見たのだが、ボルドーの某ワイナリーでは四万個のワイン樽が毎年焼却処分されている。その点もアメリカと同じである。もっとも、ニュースの主旨は樽材を用いた家具すなわち再利用にあったのだが。
ワインの年間生産量はボルドーとブルゴーニュだけでも1000万ヘクリットルを越える。昨今、随分と用いられるようなったワイン樽だが、まだまだ少ない。シェリー樽の不足が騒がれる今日、無尽蔵なワイン樽は魅力である。しかもフレンチオークにはタンニンが多く、モルト・ウィスキーに複雑な香味をもたらす。マーレイ・マクデヴィッドのクライヌリッシュに、シャトー・ラトゥールのカスクをフィニッシュに用いたものがあった。ワイン樽固有のはんなりした味わいは特筆すべきものと思う。