胃を半分除去するのは当人にとっては大変なことであろう。似たはなしがあって、知己から電話で元気かと訊かれて、元気でないと応えた。どこが悪いかとの質問に腎臓と答える。腎臓そんなもの病気にも這入らぬ、俺は癌だ、参ったか。
これにはほとほと「参った」である。病名は掃いて捨てるほどある。直接命に関わる病気は諦めるしかないが、わたしは失明がもっとも怖い病と思っている。視力がなくなるのはまさに絶望である。思索はおろか、概念づけから臭覚、嗅覚、触覚に至るまでが一端無力になる。ひとは目で考え、目で感じ、目で味わう。人生の再構築がもっとも難儀な病である。それを思えば、確かに腎臓など高が知れた病気である。