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天邪鬼   一考   

 

 文化の日はゴールデン街へ、行った先で某出版社の漫画編輯者と会う。尾田栄一郎の「ONE PIECE」の累計発行部数は2億部を超え、最新刊の60巻は初刷340万部だそうである。500万部であろうが2000万部であろうが、わたしの知ったことではない。漫画であろうが小説であろうが、大衆受けするものに興味はない。少数者が選民意識のひとつなら、多数者も選民意識そのものであるに違いない。況や大衆の支持を受けているとの理由により、漱石や太宰の次を担う日本の文化そのものとは片腹痛い。漱石や太宰が代表選手たりうるかどうかすら疑問だが。
 ママとその編輯者は村上春樹の小説でも言い争いになっていたが、わたしに云わせれば、二葉あき子と安室奈美恵とどちらが好きかと大差ないはなしである。書物は嗜好品であって、好き嫌いが底辺にある以上、端からはなしは折り合わない。文章の美醜についても同様のことが云える。わたしは自分勝手に本を読み散らかし、勝手に評価し、勝手に納得している。よって、かかる話題を好まない。人前で信仰告白を披瀝するほど野暮ではない。
 編輯者であれ、書店員であれ、現役であれば作品の内容について意見を述べるのは避けるべきである。判断は読書人が個々になすべきことであって、編輯者や書店員がそれを口にすると押し売り(ファシズム)と受け取られかねない。「売れる本は良い本である」とは書店員が屡々口にする文言であるが、そこには懐疑精神がまったく見受けられない。漱石にしても詩精神がもっとも顕著に顕れているのは晩年の漢詩と思われるが、漢詩が340万部も売れることはあるまい。「売れる本は良い本である」が正しければ、「売れない本は悪い本」になる、では漱石はどうなるのか。
 人口に膾炙しない典籍をおそるおそる読書子に差し出すところに編輯者の、書店員の真骨頂がある。「売れる」との理由によって全国の書店が同じ書物を扱うようになれば、この世は闇となる。


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2010年11月05日 20:47に投稿された記事のページです。

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