シャント造設は思いの外旨くいった。ただ深い動脈を表層の静脈と縫い合わせるため、多少の痛みは残る。所要時間は二時間二十八分四十五秒だった。局部麻酔だが、我慢する気はまったくないので、キシロカイン注ポリアンプ10ミリを打つ。手術の間寝ていようと思ったのだが、そこまでは効かない。微酔い程度で舌が軽くもつれるような感じだった。
従って、麻酔醒めには頓服のカロナールを処方される。しかし眠られず、隣のベッドから大丈夫ですかと云われる。傍に迷惑を掛けるといけないので、睡眠薬を頂戴する。大きな傷であれ、小さな傷であれ、縫ったあとは二日ほど痛む。
シャントは謂わば動脈と静脈のバイパスで、造設の目的は静脈を動脈に改造することにある。透析に必要な血量(一分あたり300ミリリットル)は静脈からでは足りないからである。時間が経てば皮膚に面している静脈が動脈となって脈打ち太くなる。人工的なミミズ腫れを拵えるようなものである。
わたしの血管が健康なため、五日ほどで透析に耐えられるようである。そのシャントから出来るだけ離れた箇所へ血を抜く注射針とダイアライザー(人工腎臓)で老廃物を除去した血液を戻す注射針を挿入する。透析に要する時間は一回四、五時間、週三回が基本となる。
内シャントは感染症に注意しなければならない。透析当日の入浴は禁止、シャント側の腕で重いものを持ったり、血圧測定や注射も厳禁である。
一日の体重増加は1キロが上限、従ってシチュー、カレー、白菜、牛乳、トマト、豆腐、果物のような水分の多い食事は当然として、うがいにすら注意を払わなければならない。普通、一日に摂る食物中の水分は1200ミリリットル、食物が体内で燃えるときにできる水が350ミリリットル、水を飲むまでもなく、それだけでも既に水分過多である。実に苛しい水分管理が必要となる。
追記
穿刺部位を濡らすのは厳禁、は良いのだが、ゴム手袋を買って来ないといけない。店のグラスはともかく、家の食器が洗われない。困ったものである。