今日店で倒れた(斃れたたのではないからご安心を)。相澤さんが帰られて午後九時過ぎだが、突然眩暈がし意識が失くなりかけた。今日は出しなから体調は悪かった。ひできさんが来るのでないかとメバルの刺身を買い、何時もより慎重に運転した。十二分に気を引き締めていたのである。
意識が持って行かれようとするのを必死に堪える。堪えきれずに混濁状態に入りかける。数を数えたり、頭のなかで念仏のように「あヽ麗はしい距離(ディスタンス)、つねに遠のいてゆく風景‥‥悲しみの彼方、母への、捜り打つ夜半の最弱音(ピアニッシモ)。」と唱える。目を覚まそうと何度もトイレへ行く。気を失いそうなので、ドアは開けっ放し。もしもの時は店にいらっしゃるひできさんとりきさんが助けてくださるに違いない。そして救急車、二人が呼んだようである。三名の救急隊員が店へ雪崩れ込んでくる。その頃には混濁状態からはいくぶん遠ざかっている。どうやら気絶せずに済んだ、ピアニッシモに助けられたようである。瞼の裏が白いとか血圧が低すぎるとか、緊急入院を薦める救急隊員には詳しく事情を説明し、お引き取り願った。
失神にもある種のコツがあって、一歩手前で踏みとどまれるようになればよいのにと思う。それにしてもお二方には迷惑をお掛けした。御免なさい。
夜風は冷たく気持よかった。身体の鈍重さとは正反対になんと風のさわやかなこと、きわやななことよ。確実にまた一歩死に近づいたように思う。明日は雨、終日家に引き籠もっていようか。