幹郎さんが蘇格蘭から帰られた。早速電話を頂戴したが、聞くところによると蒸留所の回りの木々は漆黒、その黒々とした幹に夥しい苔がこびりついているそうな。真っ黒な幹から突き出た下枝に桜の花が咲く、なんともはや、シュルレアリスムを想起させる光景ではあるまいか。
愛蘭土とも英倫とも異なる特有の景色はアルコールによるものなのだが、醤油や酢の醸造所の壁や瓦が赤黒く彩られているのと同じ理由による。
蘇格蘭の蒸留所の旅行記は数多あるが、ピートによって河川の水が黒ずんでいるとか、蒸留器のスワンネックがどうのと先行する文献の再確認に終わるのが常である。十人が十人とも同じ内容にこころを奪われ、同じような文面を著す、個性がないことこの上ない。ここは一つ詩人の目に映った蒸留所ならびに近在の風景を楽しませて頂きたいと願っている。次回の「嗜み」が期待される。