古書通信2009年11月号12月号に「書肆ユリイカの本・人・場所」と題する鼎談が掲載されている。奥平晃一、田中栞、郡淳一郎のお三方である。その延長線上ということになろうか、郡さん主宰になる「奥平さんに話を聞く会」がですぺらで定期的に催されるようである。奥平さんがなにを喋るのかわたしも楽しみにしている。
わたしはもともと黒木書店の客だったが、黒木さんは国文学が専門で、現代詩はあまり得意でなかった。十代の頃のわたしは短詩系の作品ばかり読んでいたので、神戸の古本屋がいささか物足りなくもあった。二十歳ぐらいの頃、大月雄二郎さんの西荻窪のアパートへ半年ばかり転がり込み、東京中の古本屋を歩き回った。宜しく注意属目せざるを得なかったのが、渋谷の中村書店と日暮里の鶉屋、それと神保町の田村書店だった。爾来、田村書店の奥平さんとは厚誼を重ねる仲になる。毎年のごとく本を売ったり買ったりで今に至る。
彼は商売柄、本についてはよく知っている。知っているどころのはなしではない。いかような問い合わせであろうとも、即答できなかったことはない。他方、彼は本をほとんど読まない。読まないので思い入れがない。思い入れのなさが値付けに現れる。要は拈らないのである。古本屋の店主は大方が自分の趣味を客に押しつける。その厚かましさが奥平さんには微塵もない。要は清々しいのである。
彼の旧宅では上京の度に泊めていただいた。わたしが元料理人だったのをご存じなので、食事には気を遣ってくださる。彼は上戸ではないが、常に吟醸酒が出てきたように記憶する。彼の自転車を三台誂えたことがある。内一台は旧宅の裏手にあった鮨屋のご主人が乗っている。
なにしろ四十年を越える付き合いである。書くことは山のようにある。本にまつわるはなしは追々書いてゆきたい。