まず、ご参加くださった山小屋の仲間たちにスランジバー。途中から興に乗り、偲ぶ恋、失われた時を求めて、老いらくの恋等々、モルトウィスキーの註文までが、感情豊かな悲恋ものに変わった。というか、悲恋のみが大きな感情の振幅を内包する。
わたしはかような概念的註文が大好きである。重いの軽いの、臭いのよい香りの、辛いの甘いのといった註文は意味するところがよく分からないのである。例えばヨード香、ピート香、スモーキーは各々異なる香りである。スキャパのようにピート香はないが、ヨード香を持つウィスキーもある。そのヨード香とピート香を識別なさる女性がいらしたのに愕いた。いずれにせよ、概念的註文を受けると幹郎さんのいう物語が立ち上がってくる。そこにこそ、ウィスキー飲みの醍醐味がある。
初手は柔らかく、爽やかな喉ごし、馥郁たる香りを持つものの、気づけば後になにも残らない、ダフタウンやシングルトンもそういったウィスキーである。特にシングルトンは一級の悲恋ものとしてわたしは高く評価している。
イナミさんお手製の麺麭は旨かった。無塩だとそのもみなさ(もみない=味気ないの意)にバターを多量に用いる。従って塩分一グラムの減塩麺麭の方が結構と思った。たくさん焼いてきてくださったので、次の日は終日麺麭を囓っていた。久しぶりの麺麭の感触に涙する。
ナカザワさんのハーブオイルはにんにくの香りが強く、麺麭には不向きと思われたが、炒めもの、特にパスタには最適、併せて感謝する。
聞くところによると、山小屋に麺麭工房を造るようである。釜は大谷石、いよいよ嬬恋村も忙しくなってくる。