moonさんから「はみだし者」を褒められた。書いていて註が必要な時代になったと思った。「チーチク、チーカマ、魚肉ソーセージ、目刺し、あたりめのフライか醤油焚き」と書いたが、念のために検索してみた。やはり、チーちく、チーかまは商品登録されていた。チーかまは魚肉ソーセージのバリエーションで、丸善(書店ではない)が1970年に発売。紀文のホームページにチーちくヒストリーというのがあって1996年に誕生となっている。わたしが描いた時代は60年代前半で、共に存在しない。要は似て非なるものである。
魚肉ソーセージが開発されたのは50年代初頭(発売元は明治屋)だが、1966年に六甲バター(QBBチーズ)が魚肉ソーセージにヒントを得て、世界ではじめてスティックチーズを発売、その二年前にはプロセスチーズを売り出している。わたしがいうチーチクはそのプロセスチーズをスティック状に切って竹輪に突っ込み切りそろえたもので、チーカマは鮨屋で流行った板ワサに前述のチーズの薄切りを添えたもの。共にワサビ醤油で頂戴した。竹輪に胡瓜など生野菜のスティックを差し込むのは昔から見られる簡便なお通しで、それをちょいとハイカラにしただけのこと。
当時は、せこ蟹(コッペ)、蝦蛄(しゃこ)そして烏賊の耳(耳烏賊ではない)は食するひともなく、子供のおやつだった。それに目を付けたのが引揚げ者たちで、戦後の串カツ文化は鯣烏賊の耳と鯨肉、それとラードからはじまったとされる。
あたりめのフライやげそ醤油煮はよっちゃんイカが有名(ロールスロイスはさらに有名)だが、わたしが頻繁に食したものとよっちゃんイカとでは味が異なる。わたしがいっているものは酢を使わず、醤油と味醂と七味で甘辛く煮付け、ずんと固かった。よっちゃんイカのデビューは60年代だが、さらに古く、神戸や大阪には鯣烏賊のげそを煮付ける小さな家内制手工業が多くあって、駄菓子屋や紙芝居屋へ卸していた。一箇一円で後年には三箇十円になったが、馴染み客にはちぎれた足をおまけに付けてくれる、十円硬貨を握りしめてよく通ったものである。ちょんの間のお通しだけでも、このような脚註が必要になる。