一考さま
この度は拙訳「Oの物語」に関して、過分のお言葉と鋭いご指摘をお書き頂き、まことに有り難く存じてをります。
ドミニック・オーリーにたいする敬愛が今回の拙訳の根幹にあります。澁澤龍彦その他先人の訳にときとして逆らふかたちになつたのは、そのゆゑでした。先人の訳「O嬢の物語」では必ずしも反映されてゐないオーリーの思想や文体を生かさなくてはならない。それが訳者としてのわたくしの採るべき道だと思ひました。いまなほ、先人の訳の方がいい、といふばかりで、拙訳の意図を汲まうとしない方が尠くないのは承知してをりますが、新訳にはさういふ、旧訳支持者からの反撥がでることはむしろ当然と考へてをります。
いつか、二十年か三十年後には、拙訳「Oの物語」の意義がわかるだらうとなかば諦めてをりましたが、すでに、佐々木幹郎さん、古屋美登里さん、藤原作弥さんをはじめとする方々が活字でご高評を下さいましたし、一考さんをはじめ、インターネットのブログでも高く評価して下さる方も複数おいでです。わたくしとしてはありがたきことと存じてをります。
一考さんに感謝いたします。
末尾ながら、お体のこと、案じてをります。どうか御身大切に。ご快癒を切に祈りつつ、擱筆いたします。