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クライヌリッシュとブローラ   一考   

 

 北ハイランドの東沿岸部、ゴルフとサーモン・フィッシングで有名なリゾート地ブローラにクライヌリッシュ蒸留所はある。創設は1819年。創業者はスタフォード侯、のちのサザーランド公。余剰大麦の利用と密造酒への対策を兼ねて、自らの領地に蒸留所を建て賃貸した。1925年にD.C.L社が買収。1967年、新たな蒸留所が道路を挟んだ向い側に建てられ、そちらをクライヌリッシュ、旧蒸留所をブローラと命名。下って、83年5月にブローラ蒸留所は操業停止。現在、跡地はクライヌリッシュの熟成庫とヴィジター・センターになっている。1986年以降はU.D社の傘下となった。
 ここでややこしいのは、1967〜8年に新築された蒸留所がクライヌリッシュと名付けられるまでは、旧蒸留所がクライヌリッシュと呼ばれていた。そして、その旧蒸留所がブローラと改名されたのである。従って、ブローラ蒸留所名義で造られたモルト・ウィスキーは69年から83年までの14年間のみ。69年以前に蒸留されたクライヌリッシュはブローラと同じものである。ちなみに、ブローラとはヴァイキングがつけた地名で「橋のある川」の意。仕込み水はクラインミルトン川から採取、初留釜、再留釜各一基を持ち、カードゥ、タリスカーと共にジョニー・ウォーカーのキーモルト。現在ではポットスチルの数は六基に増えている。

 スコットランド本土にありながら、オーバンと共にピート香を内包し酒質はややドライ、アイランズ・モルトの特徴を兼ね備えている。絹綾のように滑らかで豊かなこくと杳杳たる余韻、食前・食後を問わないオールラウンダーの銘酒として知られるが、ブローラに限ってなら私は食後酒の典型と思っている。そのブローラとクライヌリッシュの違いだが、スチルも麦芽も仕込み水も、さらには熟成庫も従来のものと全く同じであり設備が近代的になったにすぎない。敢えて申せば、ブローラの方がややスパイシーで苦みが強いということであろうか。ただし、この苦みはマッカランのディスティラリー・ボトルのカスク・ストレングスに著しい苦みと同質で、甘口のシェリー・カスクで熟成されたものに限られる。言い換えればフレンチ・オークに屡々見られる樽から滲みだしたタンニンのなせるわざである。最近のボトルで云えば、U.D.Vやシグナトリー社のカスクストレングス・コレクション、イアン・マクロード社のチーフテンズ、ボトラーズ社などに顕著。他方、ダグラス・レイン社の約半数とダグラス・マクギボン社、ロンバード社、同じマクロード社だがダン・ベーガンのボトルは23年ものがホグスヘッド、24年ものがフィノ・シェリーである。従って苦みは少なく、素顔のブローラに近いと云える。
 69年以降のクライヌリッシュと以前のそれとはフェノール値が異なると聞くが、真偽のほどは知らない。ただ、ピート香にさしたる変化は認められない。前述した苦みをピート香と勘違いしているのではあるまいか。思うに、煤の臭い、焦げたオークのスモーキーなキャラクター、噛み応えのあるタンニンと云ったブローラの特質を味わうには若いモルトが最適である。詮無いはなしだが。
 ゴードン&マクファイル社から84年から89年にかけて蒸留された12年ものクライヌリッシュのカスク・ストレングスの香味はブローラとほとんど識別不可能だった。もっとも、今となってはブローラは長期熟成品のみになった。それ故、プラムやプルーンなど熟した果実の香り、焼いたオレンジやレモネードの甘さ等々、カスク由来の香味とタールもしくは消毒液の微かな香りとが綯い交ぜになった円熟したアロマが汪溢する。食後酒の典型とした理由である。ライトからミディアムへ、ミディアムからフルへとブローラはどこまでもリッチになってゆく。ポート・エレン・モルティング社が最後に出したポート・エレン同様に、U.D.Vのニュー・カスク・ストレングスはスモーキーなピートの風味や塩辛さからはどんどん遠のいて行く。これも閉鎖された蒸留所の運命であろうか。
 余談ながら、90年代以降のディスティラリー・エディションはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズだが、あの濃厚なバターのようなこくと香りには閉口である。それ故、ゴードン&マクファイル社のクライヌリッシュを基準にすると何かと便利である。例えば、ヴィンテージ・モルト社やマキロップ社のそれは口当たりが柔らかく、ケイデンヘッド社のものはやや硬派。もっとも、酒の硬軟は日本酒に於ける甘辛同様、美味、不味とはなんのかかわりもなく、要は飲み手の体調次第である。なお、ゴードン&マクファイル社のクライヌリッシュの旧ボトルとよく似たラベルで蒸留所元詰のカスク・ストレングスも頒されているので注意が必要。
 特筆すべきはアデルフィ社のクライヌリッシュ。89年蒸留の12年もの、88年蒸留の11年もの、84年蒸留の16年もの、72年蒸留の28年もの、74年蒸留の27年ものなどがカスク・ストレングスで頒されているが、リキュール系の輝くような甘さとスパイシーな薫香、マスタードの辛さが顕著。ごく僅かな加水によって甚だドライでシャープな切れ上がりをみせる。他ではシグナトリー社とダグラス・マクギボン社の加水タイプのクライヌリッシュも傑出したモルト・ウィスキーである。


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2008年11月20日 19:17に投稿された記事のページです。

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