「開店とは申せ、ガスは繋がらず冷凍庫は故障、トイレの鏡とタオル掛けは明日、カタログは未定というありさま。ただ、ウィスキーだけは売るほどあります。従って、オープニングはまだ先のことにして、とりあえずのプレオープンです。食べものはなにもありませんが、どうかよろしくお願い致します」と案内したのが去年の十月二十九日、あれから一年が経った。
この一年を顧みてなどという感慨はなにもない。それは年初に挨拶はおろか、なんらの計すら持たないのと理由は同じである。一月一日は十二月三十一日の次の日であって、それ以上でもそれ以下でもない。そして一月一日に二日のことは考えない。目が覚めて生きていたら、その日のことを考えればよいのである。
とは申せ、この一年は目まぐるしかった。もっとも目まぐるしいのは目の前にあるものであって、世の中であり時代の変化だった。目がちらつきはするものの、自分にはいささかの変化もない。個であることに、変化の持ちようがないのである。ただ、個であるために周章て、噪ぎ、狼狽えることがあった。しかし、それは内面の浮沈であり、起伏である。その一端は掲示板で著した。従って、これ以上述べ立てる要はない。
さて、一周年の日のお手伝いさんが決まった。その日はモルト・ウィスキーを飲もうと思っている。ひとりでは淋しい、お付き合いくださる方を求めている。