トマス・ピンチョンの「スロー・ラーナー」新装版 (ちくま文庫)が上梓された。訳者は志村正雄さん、あとがきに小生の名前が載っている。
少々補足すれば、「海」へ掲載された「秘密のインテグレーション」に大いに啓発され、安原顕さんに相談を持ちかけたのが事の発端。当時、雪華社に在籍していた私は「海」以降、ピンチョンの翻訳が進まないのに業を煮やし、短篇集を拵えようと思ったのである。安原さんに関しては何やら訝しい噂も流れているが、私にとっては竹内書店時代に彼が編輯したパイデイア以来のお付き合い。パイデイアの創刊は確か1968年だったと記憶する。その後、彼が中央公論社へ潜り込んで、「海」の編輯に携ってからは繁くお会いするようになった。その頃のことは事情があって書かないが、彼は私にとって数少ない先達のひとりだった。
ピンチョン短篇集には安原さんも殊の外乗り気で、ゲラまで出たのだが、雪華社が突如解散、志村さんに多大なご迷惑をお掛けするこになってしまった。
志村さんには雪華社が解散に至った経緯もお話していない。にもかかわらず、今回の新装版へわざわざ名前をお書き込み下さって恐縮である。ここに記して深甚の謝意を表したく思う。