四輪はハンドルで乗るが、バイクは身体で乗る。ハンドルは体重移動に合わせて勝手に切れ込んでゆく。手はハンドルに添えているだけである。ところが事故を起こすと、身体はしっかりとその痛みを覚えている。この二日間、バイクに引きずられていた。腰が引けるというが、身体が引けてしまっているのである。
戸田橋を渡って志村に親しくしているバイク屋がある。今日そこを訪れた、泣き言を並べにである。バイクは気合いだよ、貴方のようなベテランライダーならそれぐらい分かっているだろうにといいながら、玄翁のような大きな木槌を持って彼は私を追っかける。私を撲るのかと思いきや、木槌はもっか修理中の他のバイク目掛けて振り下ろされた。その一撃でなにかが吹っ切れた、走りが元に戻ったのである。
今回は二日で終わってよかった。やがて、これが一箇月になり二箇月になり、そしてバイクに乗られなくなる。バイクに跨られるのは何時までだろうと思う。そう思うと居ても立っても居られなくなってBMWの車検を頼んだ。時速二百四十キロを遠い思い出にしてはならない。おそらく、リッターバイクに乗る最後の機会になる。今を除いて気合いが入るときはない。