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旧字の薦め   一考   

 

 一度削ったものの、問題はなかろうと思い再録する。

 昨夜、加藤郁乎さんが来店。考えてみれば郁乎さんは会津藩士の末裔、とすれば御預一千七百四十二名のなかに入っているはずである。今度機会があればと思ったが、私が家系図を繙くことは二度とない。郁乎さんと私のあいだにもきっと不思議な縁があるのだろう。
 酒井良佐、八木操利、渡邉千之助ら八十八名は高田藩を脱藩、神木隊を編成して彰義隊と合流。上野で官軍と激闘のあと、一部は会津戦争へ、一部は榎本武揚の蝦夷共和国に渡り、伝習士官隊、遊撃隊、新選組などと共に第一列士満を編制。函館戦争で神木隊は全滅する。
 「上越市史・通史編」や「浅川町史・第一巻」には寛政10年(1798年)正月、越後高田藩浅川領内で起きた百姓一揆について著されている。仕置きをしないとの領奉行の申し渡しを破り、一揆を主導した者は捕えられ打ち首になった。この浅川一揆に対する権力者側の言い分など私が知りたいことは多い。
 一級資料と云ったのは家系図そのものにあらず、一緒に綴じられた書き込みにある。江戸時代の上級管理職の苦衷のほどが淡々と綴られている。ただ、書体もさまざまにして字体はことごとくが俗字、なれば私に読み解くことはかなわない。

 思うに、美華書館に範をとった築地活版製造所や秀英舎に端を発する活字の歴史などはなしにならない。況や第二次世界大戦後に現れた正漢字なる概念など笑止千万。一点之繞と二点之繞の違いや、三画の草冠と四画の草冠の違いなどはなしを不必要に混乱させるばかりである。当用漢字、正漢字などという不毛の争いはやめて旧字や俗字を大らかに用いればよいと思う。
 正漢字を意識して用いはじめたのは塚本さんだが、当時の編輯者にとっては正漢字と俗字の区別すらつかず、みなさん諸橋大漢和をこぞって購入したものである。その塚本さんにしてからが、この漢字は冨山房の、こちらの漢字は角川のそれをと言い出す始末。何をもって正漢字とするかの定見はどこにもない。その水掛け論を私は笑止といっているのである。
 先頃、間村さんが句集を上梓されたが、その「間」には百けんのけんが用いられていた。渡辺のなべにしてからが邊が正字にして邉が俗字だとか。しかるに古文書で邊の字は見たことがない。現在の大家の姓はクワムラだが、そのクワは木が三つである。柿なども正字を用いるのはその人の勝手だが、見ていて滑稽である。
 そもそも正字の範をかつて用いられていた旧字にとるのであれば、木版を含めて印刷会社(要するに母型や版木)の数だけの漢字がある。字体が異なるからと云って、誰もそのことに不自由を感じなかったのである。返り点が付いていようがいまいが、そのようなことはどうでもよい。問題は書き文字を活字に置き換えようとした戸籍事務の電算化にある。後述する「担当者」から為の字の四点が連なっているので一にすべきだと、これは某大学の学者(名前も聞かされた)が口にしたようである。古文書を読み解くに学者では覚束ない、草書または行書などくづし文字を知り尽くしている書家の手を借りるにしくはない。書き文字をそのまま活字にしようとするから無理が生じる。

 「はなしは旧字、略字にとどまらない。渡辺の辺には六十五種類、斉藤の斉には三十一種類、佐藤の藤には十四種類、高橋の橋には六種類の異体字が謄本や住民票で用いられている。かつて当掲示板で改名について書いたが、明石の市役所で六十五種類の「辺」を見せられて愕然とした。まるで八百屋の店先で今日の「なべ」に入れる具材はどれにしましょうかと、品定めをさせられているような塩梅である。
 異体字が際限なく膨らんだ理由の半分は謄本をデジタル化するときの書き文字の判読にあり、あとの半分は官による字体の統一がなされなかったところにある。之繞の崩し字の「てん」が繋がっていればひとつ、分かれていればふたつ、といった滅茶苦茶な分類・識別が繰り返されたと担当者から聞かされた。
 国家や政府による規制の有無に対して私は意見を持たない。ただ、「りったつ」の「てん」や「そうへん」または「はね」や「かえりてん」のように、字形の異なる母型が無数に存在する理由はすべてを民間に委ねたところにある」

 とかつて掲示板で書いた。オフィシャル・ボトル同様、正字などというもっともらしい権威主義的な表記が人を狂わせる。歴史的仮名遣いはともかく、正漢字は古文書のなかにはほとんど存在しない。


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2008年07月31日 12:10に投稿された記事のページです。

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