先日、幹郎さんから「小粋」を教わった。現在のところ唯一の国産刻み煙草である。
タバコはナス科の植物だが、煙草、丹波粉、淡婆姑などの字をあて、糸煙、相思草、返魂(はんごん)草などとも呼んだ。ちなみに草がつく名称なら、他に延命草、養気草、大平草、南霊草、思案草、分別草、長命草などともいう。相思草の相を取って、思い草もしくは忘れ草との異名もよく知られている。
紀元前から中央アメリカのマヤ族によって用いられ、コロンブス等によってヨーロッパへ伝えられた。日本へは近世初頭に南蛮船によってもたらされた。葉巻、巻煙草、刻み煙草、嗅煙草、噛煙草などの種類があるが、わが国では刻み煙草のみが発達した。近世初頭と書いたが一般化するのは元禄以降のことで、欧州同様、伝搬にはかなり時間がかかっている。なかには煙草に対する弾圧政策で首をはねられた国王もいるが、それらは歴史書を繙かれたい。
それにしても、刻み煙草は綿毛のように細かく柔らかい。しかし、触感の繊細さとは異なって香味はずんと辛口である。聞くところによると、香料や添加物が使われていないのはマイルドではない証拠で、両切ピースと小粋だけだそうである。
キセルでパイプ煙草は喫まれないが、パイプで刻みを喫むのは可能である。そこで、小粋と分割される小粋用のキセル、それと小さなパイプを買ってきた。このパイプは使い捨ての玩具ですよ、と煙草屋の店主。おもちゃで結構、煙草そのものを私は有害玩具と理解している。千円以下での遊びなら耄けてみたいと常日頃から思っている。
幹郎さんが仰有っていたが、火皿の煙草の火が消えないうちに掌に載せて転がす、その火で新しく丸めたキセルの煙草に火をつけるのが通だとか。習熟しなければできない芸当である。それよりなにより、火をつけるのが難しい。パイプならライターの火を強く吸い込む、ところが刻み煙草はそっと火を置くようにして着火しなければならない。
私は普段はシートタバコ(葉タバコを原料として人工的に紙状に成形した模造タバコ)で巻いた安価な葉巻シガリロとパイプ煙草を喫んでいる。敷島や桔梗は知ってはいたが、嗜まないままに廃盤になってしまった。そこへ新たな玩具が加わったのである。もっか小粋に打ち興じている。
日本各地の銘葉の芳香を生かした喫味と共に、タバコ入れ(刻みタバコの携帯容器)、タバコ盆、がちゃがちゃ煙草、タバコ休み、タバコ銭、煙管焼き、羅宇屋(羅宇のヤニ取りやすげ替えを生業とする露天商)など、さまざまな言葉が喪われてゆく。言葉は生き物であり、その消長は時代の風俗と共にある。