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新入荷のボトル   一考   

 

 最後のロイヤル・ロッホナガー以外はヘヴィリー・ピーテッドであって、今月のモルト会用に購入した。キルホーマンはかつて紹介した。ブナハーヴン、ジュラ、ブルイックラディと続いて、これでアイラ島のすべての蒸留所がピーティーなモルトを造るようになった。
 未入荷はトマーチンの試作品(13年ものカスク・ストレングス)のみ。もっとも、ヘヴィリー・ピーテッドと名付ける以上はレダイグの15年ものやロングロウも仲間入りする。
 ところで、ごく最近モルト・ウィスキーのファンになった方にとって、前述のアイラ・モルトはいかように評価するのであろうか。私にとってはピーティーなブナハーヴンは例外として扱うしなかいのだが。
 先日もシグナトリーのブナハーヴンは旨いという客が来られたが、シグナトリーがかつてボトリングしたブナハーヴンはピートをほとんど焚いていない。これではブナハーヴンが旨いのでなく、シグナトリーが旨いのでもない。97年の585本のボトルのみが旨いということになる。当然、モルト・ウィスキーは一樽の限定品であって香味はさまざま、従って評価もさまざまでよい。同様に、どこそこのボトラーのウィスキーは旨いというのは妄言である。
 ごく一部の蒸留所を除いてアイラ・モルトは加水にキャンベルタウンの水を用いている、と客に喋ったところ、その理由を執念く訊かれた。聞きかじったままに云ったまでで、他意はない。蒸留所がどこのモルトを使おうが、どこの水を用いようが、私の知ったことではない。例えばグレン・オードは最大のモルトスターだが、モルトの出自を確認して酒を飲む人はいまい。それとモルトスターは蒸留所の要請に応じてどのようなモルトでも造る。ポート・エレン・モルティング社がやたらと有名だが、そのポート・エレンにしてからがピートを焚かないモルトも造っている。正確には蒸留所に卸すのはモルトではなくグリストだが。
 近頃、ウィスキーを学問なさっている方が多い。それはそれで結構だが、困惑させられる質問は願い下げである。私にとって酒は飲んで旨いか不味いか、ただそれだけである。この消息は文学も同じである。
 ※はディスティラリー・ボトル

 アイル・オブ・ジュラ・ヘヴィリー・ピーテッド '99※
 ヘヴィリー・ピーテッド・エディション。56.9度のカスク・ストレングスにしてディスティラリー・ボトル。06年、600本ののボトリング。
 ヘヴィリー・ピーテッドが最初にボトリングされたのは、パシフィック・カレドニアンから頒された99年蒸留、02年ボトリングの3年もの。フェノール値は60ppm。ジュラ蒸留所のマスターブレンダーのリチャード・パタースンと同蒸留所長マイクル・ヘッズ両氏によるボトリングだった。その後、同じヴィンテージの5年ものが頒されている。
 従来のディスティラリー・エディションと異なり強烈にピートを焚いている。レダイグ15年ものを想起させる強いピート香、パワフルでスモーキーなフィニッシュ。本品にはフェノール値40ppmのポート・エレンのモルトを使用。同じヴィンテージで58.0度のピーテッド・モルトも頒されている。
 二回目は08年6月26日の発売。リフィール・シェリーバットの9年もの、59.1 度、300本の入荷。仁丹、靴磨きクリームやミンクオイルの香り、歯科医で食べるポークリブの味わい。

 キルホーマン '07※
 フレッシュ・バーボン・バレルによるニュー・スピリット。熟成は49日間、62.4度。2樽のリミテッド・エディション。
 キルホーマン蒸溜所はアイラ島に2005年にオープンしたスコットランド最西の蒸溜所。現在はアイラ産の麦を自らフロアモルティングした麦芽とポートエレンの麦芽と二種類の麦芽が原料に使われている。ピートもアイラ産でフェノール値は50ppmと非常にピーティ。麦の栽培からボトリングまでのすべての工程を自社で行う。

 ブナハーヴン・ヘヴィリー・ピーテッド '97(シグナトリー)
 カスク・ストレングス・コレクションの一本。リフィール・シェリー・バットの9年もの、59.1度。585本のリミテッド・エディション。
 ブルイックラディ蒸留所に先駆けてブナハーヴン蒸留所はヘヴィリー・ピーテッドを頒布。こちらはポート・エレンのモルト(38ppm)を使用。今ではすべてのアイ ラ島の蒸留所がピーティーなタイプのモルトを造っている。
 本品に先行してドイツのスコッチ・シングルモルト・サークルから97年蒸留、8年もの、57.8度のボトルあり。同じくシグナトリー社のアン・チル・フィルタード・コレクションからリフィール・シェリー・バットの加水タイプがボトリングされている。共にヘヴィリー・ピーテッド。

 ブルイックラディ 3D ピートプロポーザル※
 46度のディスティラリー・ボトル。
 1989(5ppm)、1998(25ppm)、2001(40ppm)の三種類のモルトをヴァッティング。ちなみに、カスクもリフィールシェリー、リフィールバーボン、フレッシュバーボンとそれぞれ異なる。結果としてブルイックラディ蒸留所初のピーティーなモルト。本品はやや物足りなさを感じるものの、この2001年蒸留のモルトがやがてポート・シャーロットへと結実してゆく。
 94年蒸留のブルイックラディ、01年蒸留のポート・シャーロットとアイリッシュをヴァッティングしたフェノール値18ppmの「ケルティックネイションズ」もある。
 ブルイックラディではポート・シャーロット、ロッホ・インダール、オクトモア(未頒布、80ppm)と呼ばれる三種のヘヴィリー・ピーテッドを造っている。現在、かつてのロッホ・インダール蒸留所の建物にインヴァーレーヴン蒸留所の設備を移設してポート・シャーロット蒸留所の名前で蒸留所を開くプランが進行中。アイラ島の蒸留所がまたひとつ増える。

 グレン・スコシア・ピーテッド '99※
 アメリカン・オーク・カスクの8年もの、45度。325本のリミテッド・エディション。
 同じピーテッドに00年蒸留06年ボトリング、45度、350本のエディションもある。共に美味。
 最近はピートを深く焚き籠めたモルト・ウィスキーが増えてきたが、その魁をなしたのがスプリングバンク蒸留所のロングロウ。グレン・スコシア蒸留所はもっかスプリングバンクが操業を手伝っているので、ヘヴィリー・ピーテッドを造るのはお手の物である。

 キャパドニック・ピーティー・バレル '98(ジャン・ボワイエ)
 ベスト・カスク・オブ・スコットランドの一本。スモール・ピーティー・バレルの9年もの、43度。970本のリミテッド・エディション。
 ヒビテン液(洗浄剤)のような不思議な香りはなく、スペイサイド特有の西洋梨や完熟林檎の馥郁たる香りを伴った辛口。その方がよほど不思議である。キャパドニックのヘヴィリー・ピーテッドは現在のところ本品のみ。
 グレン・グラントの第二工場として1898年創業。その後長い間閉鎖され、1965年に再操業。シーバス・リーガルの原酒として使用されているため、シングルモルトのディスティラリ・ボトルは現在なお発売されていない。グレン・グラントと同じ仕込み水や麦芽を使っているのに味わいは異なる。

 オールド・バランデュラン※
 ヘヴィリー・ピーテッド、オーク樽の8年もの、50.0度。
 トミントール蒸留所で仕込まれた初のヘヴィリー・ピーテッド、熟成年数や蒸留年の記載はない。オーク樽8年の記述はウイスキー・マガジン56号に基づく。
 ヘザーの煙と癖の強い柑橘系の香り、どことはなしに甘酸っぱさが感じられる。スモーキーかつピーティーなフィニッシュ。
 現オーナーはアンガス・ダンディー社で、トミントールの他グレン・カダム蒸留所を所有。オーナーが変わったのが2000年、その折に試験的に少量生産された。ちなみに、バランデュランはマザーウォーターを採る川の名。
 他ではジャン・ジャック・ウィバース社から60.7度のカスク・ストレングスが、イアン・マキロップ社から62.1度のカスク・ストレングスが頒されている。共に2001年蒸留、2005年のボトリング。

 ベンリアック・キュオリアシタス10年※
 10年もの、46度。フェノール値は55ppm。
 シグナトリー社のボトルにはない苦みが感じられる。通常のボトルと比してかなり辛口。
 2004年に、バーン・スチュアート社の前オーナーだったビリー・ウォーカー氏が中心となってペルノ・リカール社から蒸留所を買収。現在はアンゴスチュラ・グループの傘下。ノン・ピートからヘヴィリー・ピーテッド、そして様々な樽を用いたダブル・マチュアードをボトリング、積極的にシングルモルトを商品化。
 ピーティーなモルトとして本品の他「オーセンティカス」「オロロソ・ピーテッド」などが頒されている。

 ベンリアック・ヘヴィリー・ピーテッド '94(シグナトリー)
 アン・チル・フィルタード・コレクションの一本。ホグスヘッドの11年もの、46度。389本のリミテッド・エディション。
 キュオリアシタスと比して柑橘系の香り高く、さらに嫋やかな味わい。
 ドナート社とゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスから40度のボトル、他ではダンカン・テイラー社のピアレスから長期熟成のカスク・ストレングスが頒布されている。コニッサーズ・チョイスは古く、69年蒸留のいわゆる白コニの時代からボトリングされている。インデペンデント・ボトラーのボトルが極端に少ないが、シグナトリー社とダグラス・レイン社はかなり樽を持っている。
 ヘヴィリー・ピーテッドとして本品以外にもジャン・ボワィエ社からピーティーバレルがボトリング。1994年蒸留の12年もの58.1度が樽ごと輸入され、伊勢丹限定でボトリングされている。

 ベンローマック・ピート・スモーク※
 46度のディスティラリー・ボトル。
 本品にはベンローマック特有の茗荷を思わせる苦みがなく、美味。
 スペイサイドでもっとも小さい蒸留所ベンローマックからヘヴィリー・ピーテッドがリリース。フェノール値55ppmの麦芽を原料に2000年に蒸留、2007年にボトリング、生産本数は6000本の限定品。
 フェノール値とは麦芽に炊き込まれたピートの度合いを測る指標。ボウモアで平均22ppm、ラガヴーリンやラフロイグで35から40ppmといわれており、本品の55ppmという数値はアードベッグに匹敵する。
 他では、ベンローマック蒸留所が1940〜50年頃に造っていた原酒を再現した繊細で品の良いピーティーなモルトをオーナーのゴードン&マクファイル社がボトリング。ベンローマック・トラディショナル40度がそれである。

 アードモア・トラディショナル・カスク※
 2007年発売、46度のディスティラリー・ボトル。
 雑味のなさはヘヴィリー・ピーテッドも同じ。癖なく破綻なく飲みやすい、要するに少々物足りなさを感じる。
 十九世紀の伝統的な製造方法を再現したとされるトラディショナル・カスクは、ピートを焚き込めた麦芽を使用し、通常サイズのアメリカンオークで熟成後、バットの四分の一サイズの樽に移して後熟。一回り小さな樽に入れることで、結果的に樽の個性がより深くウィスキーに浸透する。ラフロイグやグレンファークラスに同種のクオーター・カスクがある。
 ウィスキー・エクスチェンジ社からヘヴィリー・ピーテッドが頒されている。94年蒸留の11年もの、リフィル・バーボン樽での熟成、289本のリミテッド・エディション。

 ブレッヒン '02※
 46度のディスティラリー・ボトル。
 バーガンディー・カスクの4年もの46度。900本のリミテッド・エディション。エドラダワー蒸留所のセカンドラベル。
 ブルゴーニュはコートドールのバリックと呼ばれるオーク樽由来の複雑な香味。パヒューム香の替わりにゴムの臭い、フェノール値が高く薬品臭が強い。ボディは厚く、ココアパウダーもしくは胡瓜のへたのような苦みが感じられる。慣れるのに時間がかかるモルト・ウィスキー。
 と書いたのだが、五箇月ぶりに飲んで愕かされた。封開け時と違って香味にまとまり有り、ずいぶん美味くなった。

 クロフテンギア '01※
 アメリカン・オーク・ホグスヘッドの5年もの、45度。430本のリミテッド・エディション。
 アイラ系の鼻を突き抜ける鋭さはなく、ピートやスモーキーフレーバーは口腔にゆっくりと拡がる。ピカールのような錆落としの臭い、白酒や茅台酒を思わせる味わい、蒸留所特有の湿った土の匂い、そして強烈な塩辛さが特徴。
 ロッホ・ローモンド蒸留所は型の違うポットスチルやピートの乾燥度合を変え、様々な原酒から四種類の銘柄をボトリング。インチマリン、オールド・ロスデュー、ロッホ・ローモンド、クロフテンギアである。
 ヘヴィリー・ピーテッドなモルトはクロフテンギアで、ディスティラリー・ボトルに先行する形でSMWSから12年ものが、2004年「ウイスキーマガジン・ライブ東京」の記念ボトルが204本それぞれボトリングされている。

 ロイヤル・ロッホナガー '91(シグナトリー)
 カスク・ストレングス・コレクションの一本。リフィール・シェリー・カスクの16年もの、58.3度。640本のリミテッド・エディション。
 カスク・ストレングスはレアモルトと本品のみ。


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2008年06月05日 21:30に投稿された記事のページです。

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