かつて麦汁(ばくじゅう)という言葉を聞かされた。クライズデールのラフロイグを飲んだ感想で「この重みと力強さは麦汁のそれである」と、さる客からそれこそ力強く宣われたのである。さっそく「力強い麦汁の香り。口腔にダイナマイトの訪い。五臓六腑にずしりとくる存在感。ウィスキーとはかくも熾烈なもの」とキャプションを書き直した。ところがその後、麦汁を飲む機会を得た。聞くと飲むとでは大きな違いで、なんと甘くて穏やかなものかと驚かされた。これではまるで麦ジュースである。酒精は糖分が分解されて作られる。考えてみればビールの元なのだから甘くて当然である。前述のキャプションは「焼け焦げたヘザー、浜に打ち上げられひからびた海藻、ロープに塗り込められた防腐剤などが醸し出す沃素の臭い。九年ものとは思われぬ、ビッグでパワフルなフィニッシュ。是非ニートかつ常温で味わって頂きたい銘酒」に置き換えられた。
ラフロイグには「五臓六腑にずしりとくる」ものが多い。エイコーンの水源地シリーズのキルブライド、またはインプレッシヴのラフロイグなどがそれに相当するだろうか。