ウィスキーで繁く用いられるフェノール香とはどのような香りなのか。日本人であればまず漆を想い起こす、はたまた単寧のような鞣革剤、淡めたメントール、染めに用いるナフトール、写真現像薬、接着剤等々、どういってみたところで、フェノールの香りとの距離を縮めたことにはならない。
友人の医師に訊いたところ、それはツベルクリンかリスターのようなものだと云われた。この医者はひとのはなしを茶化す癖があるので調べると、リスターとはイギリスの外科医で、石炭酸溶液による消毒法の開発で近代外科手術に貢献、と辞書にある。ならば薬用石鹸のことかと問い質すと、そうだとの応え。
医師を信じると、フェノールはヨード、アルコール、ホルマリン、クレゾール、リゾール、クレオソート、硼酸、晒粉、昇汞、生石灰の類いと同じ仲間だそうである。ツベルクリンの臭いを私は知らないが、薬用石鹸なら身近に感じている。ピートがもたらすフェノール香が薬用石鹸と同一かどうかは定かでないが、なんとなく納得できる。アイラモルトのヨード香とフェノール香は通底するとみて間違いない。